11.友達



学校帰り、は京子と一緒に並盛駅前に遊びに行った。前からテストが明けたら買い物に行こうと約束していて、これを楽しみにテストを乗り切ったの足取りは軽い。転校して来てからだいぶ経ったが、京子と二人で遊ぶのは今日が始めてだ。いつも綱吉や獄寺、山本がいるから、女の子二人でというのはなんとなく新鮮な気持ちがの胸を躍らせた。
「ねえちゃん!あのワンピース可愛くない?」
「可愛い!京子ちゃん、ああいうの似合いそう」
実際に買わなくても、見ているだけでも楽しいし、お互いに似合いそうな服を見つけられると嬉しくなる。こうやって二人ではしゃぎながら駅ビルの中を順番に回り、それから本屋によって雑誌を買って、並盛商店街の京子オススメのケーキ屋でショートケーキとチョコレートケーキを買うと、京子の家に向かった。


京子の部屋で、二人はケーキを堪能しながら雑談に花を咲かせた。ケーキのこと、服のこと、授業のことと続けば、次の話は決まっている。
「でね。ハナ、最近は牛柄のシャツの人の話ばっかり」
「ハナちゃん同級生には興味ないかぁ」
「山本くんとか獄寺くんとか他の学年の子にも人気あるけど、ハナは同学年には興味ないって。ね、ちゃんは好きな人いる?」
女子同士となると話題は自然と恋愛になるものなのか、京子は興味津々の様子だ。今までこの手の話をしてこなかったは何て言おうか少し迷って、素直に頷いた。
「あの、その。いる、かな」
「え!誰?あっ、ごめんね、言いにくいよね。無理しなくっていいよ!」
「あ、ありがとう……まだ、ちょっと。今度、言うね」
京子にはきっといつか言おうとは心に決めた。イタリアではこんな話をすることはなかったし、それ以前に誰かを特別に思うこともなかったは、最初は全く気の乗らない勝手な話だと思っていた縁談話が今ではそうじゃなくなっていることに自分でも驚いていた。その一方で、嬉しい気持ちもあった。
ただ、綱吉が好きなのは京子だと、見ていれば分かる。そのことがの胸に微かな痛みをもたらしていた。
「京子ちゃんは好きな人、いる?」
答えを聞きたくないと思いながらも、どうしても気になっては聞いた。もしも京子も綱吉を好きだと言ったらどうしようと、内心ドキドキしながら返事を待つ。
「実は私ね、そういうのよく分かんないんだ。友達の"好き"とは違うのは分かるんだけど、"特別"って感じたことはないのかも」
「そっか。難しいよね」
「うん。私にもいつか分かるのかなぁ」
首を傾げる京子には頷いた。もほんの少し前まで考えもしなかったけれど、今では分かるつもりだ。それは考えなくても急にやってきて、なんとなく分かるものだから京子にも分かる日は絶対に来る。
正直なところ、は京子に好きな人がいないと聞いてほっとしていた。もし同じ人を好きだったらどうしれいいか分からないし、京子とギクシャクした関係にならなくて良かったとは息をついた。


時計が六時を指して、は京子の家を後にした。途中まで一緒に行くよと言ってくれた京子と並んで玄関を出ようとしたところで、は頭上に人の気配を感じ取った。
「出てきちゃダメ!」
「えっ?」
ドアが閉まる直前、は京子を家の中に押し込んだ。自分が狙いなのか京子が狙いなのか分からないが、とにかく京子を関わらせてはいけないという一心だった。
が屋根の上に視線を動かすと、そこから人影か降りてきた。黒いスーツを着た男が二人、に詰め寄った。
「笹川京子か?」
「そ、そうですけど……」
どうやら狙いは京子らしいが、詳しい情報は持っていないらしい。京子のふりをしておけば、少しの間だけでも京子と敵と思しき男たちを接触させずにすむと判断したは、一般人のふりをした。
「そうか」
男の腕が伸ばされる。
「何、――くっ……」
避けるよりも早く、手がを掴んだ。ふり払おうとしたが、もう一人の男の方が速かった。トンと首に衝撃が加えられ、の意識が揺らぐ。京子のふりをして隙を見て返り討ちにしようと思っていたのに、そんな隙などなかった。
「よし、行くぞ」
男たちは頷き合うと、を背に担いで走り出した。
視界が暗くなり、は意識を手放した。
BACK
NEXT
TOP

110418