10.胸騒ぎ



学校からの帰り道、珍しく綱吉は一人だった。先日のテストが赤点で、一人居残り追試を受けていたからだ。いつもは同じ赤点常連の山本は今回はぎりぎり赤点を回避していて放課後は部活にいったし、獄寺も思いついたばかりの新技を試したいからと先に帰ってしまった。も、京子と買い物に行くと言っていた。そういうわけで、いつもはにぎやかな帰り道が今日は静かだった。
綱吉は学校から家までの道のりを考えごとをしながらゆっくり歩いていた。が日本に来て二ヶ月程経った。忘れがちだけれど、彼女が日本に来たのは自分との婚約の為だったはず。すぐには分からないからしばらく保留にしようという彼女の提案から、今はどっちつかずな状態だ。
俺が好きなのは、京子ちゃんのはず――それなら、『婚約はできない』って言えばいいじゃないか。そう思わないこともないのに、言わないのは自分が迷っていることにも気づいているからだ。普段はあまり意識することはないが、こうして一人でいると考えてしまう。
「……のことも、気になってるのかな」
そう一人呟いたとき、目の端で何かが光るのが見えた。綱吉が何だろうと思ってそちらを向くと、屋根の上にいた男と目があった。非日常的な生活を送っている綱吉には、一目で解った。
マフィアだ。
反射的に身構えた次の瞬間、銀色のナイフが空を切った。
「!」
それは綱吉を僅かにそれ、足下のコンクリートに突き刺さる。綱吉が怯んだ僅かな隙に、男はさっと屋根上から姿を消した。周囲を探し回るものの、行き先も目的も、正体も掴めない。ひとしきり辺りを探したものの、何も見つからなかった。仕方なく道路に一本刺さったナイフだけ回収した。銀色のナイフは見たことのない、独特の形をしていた。ナイフを鞄にしまうと、綱吉は家へと足を早めた。
「一体、なんだったんだろ?」
自分を狙ってきたのか、それともたまたまないのか。おそらく前者だろうとは思う。けれど何故自分が狙われるのか、その理由に心当たりはなかった。


「ただいまー」
「あら、おかえりなさい」
家に着くと、綱吉はすぐに自室へ駆け上がった。ドアを開け、家庭教師の名を呼ぶ。
「リボーン!」
「お、帰ったか。何だ、どうかしたのか?」
いつものように相棒のレオンを帽子に乗せエスプレッソ片手に寛いでいたリボーンに、綱吉はさっき拾ったナイフを差し出した。それを見てリボーンはエスプレッソをテーブルに置く。
「デザインナイフだな。どうしたんだ、それ?」
「知らないやつが、いきなり……」
帰り道のことを綱吉が説明すると、リボーンは考え込むような姿勢になった。心当たりはないらしい。
「おそらくボンゴレに恨みか何か、あるヤツだろうな」
「や、やっぱり?」
「少し調べてみるか…何か分かったら教えてやる」
何か分かるまでは警戒をしておくしかない。リング争奪戦が終わり、ようやく穏やかな生活が戻ってきたと思っていたところの出来事に、綱吉は憂鬱な気持ちになった。自分ひとりがたまたま男の標的になっただけならまだいい。けれど今日の出来事は偶然ではない、と直感的に綱吉は感じていた。
「なんとなく、嫌な予感がするんだ」
ボンゴレの血がそれを感じさせるのか、かすかな不安が綱吉の胸を騒がせた。
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