8.暗闇に光るもの 「ここが黒曜ランド?」 の目の前には錆び付いて閉ざされた門があり、その奥には崩れかけたビルや遊具が見える。かつてのレジャーランドは今ではすっかり廃墟となっていて、傾いた太陽と秋の冷たい風が怪しい雰囲気を助長している。 黒曜ランドに遊びに行こう、と言われて来たのはいいが、まさか廃墟だとはは想像していなかった。 「、どうした?」 「遊園地って聞いてたんだけど。ここで遊ぶ…の?」 「そうだぞ」 当たり前だとでも言いたげにリボーンは頷いた。そんなバカな。そう思ってがみんなの顔を見回すと、苦笑しているのは綱吉だけで、山本や獄寺は当然そうな顔をしている。京子とハルは最初こそ驚いていたものの、ドキドキするねと笑っていた。 「なぁリボーン、こんなところで一体何するんだよ」 「廃墟だぞ、肝試しに決まってんだろ」 「え〜っ!!」 「おっ、面白そうだな」 季節はずれの肝試しに声を上げたのは綱吉で、山本や獄寺は楽しそうにしている。先頭を歩くリボーンについて黒曜ランドに入っていく一行の後ろでは固まっていた。 「はひ?ちゃん、どうかしましたか?」 「あ…ううん!なんでもない!」 「そうですか?」 はみんなに駆け寄ると、その後ろをとぼとぼと歩いた。怖さ半分、楽しさ半分ではしゃいでいる京子とハルとは対照的に、の顔は曇っていた。みんなに気づかれないように笑おうとしてはいるが、憂鬱さを隠せていない。 ――よりによって肝試しだなんて。 は幽霊とか骸骨とかそういう類のものがあまり好きではない、というよりもむしろ苦手だった。でも肝試しなんて止めようよとは言い出せず、どんどん黒曜ランドの奥へと進んで行く。すぐに肝試しの舞台には打ってつけという雰囲気のビルに着き、先導していたリボーンが足を止めた。かつての管理棟だったらしいビルの蛍光灯や窓は割れていて、天井からは蜘蛛の巣が垂れている。あたりはすでに薄暗く、いかにも「何か出そう」な雰囲気だ。 「へー、結構それっぽいのな」 「ひぇーホントな何か出そう」 「幽霊か……もし出たら捕まえてやりますよ!」 「いっ、いいよ!」 お化けやらUMAやらに興味津々の獄寺はやけに張り切っているが、綱吉は若干引き気味だった。綱吉も肝試しを嫌がっているのを察して、自分だけじゃないのだとは少しほっとした。みんながガヤガヤし始めると、リボーンが一つ咳払いをして、その場を仕切った。 「さて、ここが肝試し会場だぞ。この管理棟は四階まであって、廊下の両端に階段がある。こっちの階段から上って、各階を通り四階にある印を取って戻ってくるんだ」 「印って?」 「ボンゴレの紋章が書いてある紙を置いといたぞ。それを取ってくるんだ。いいな?」 みんなが頷くと、リボーンは懐から一枚紙を取り出して、それを読み上げた。 「チーム分けを発表するぞ。京子・山本、ハル・獄寺、・ツナだ。異論は認めねーからな。ちなみに一番早く戻ってきたチームが勝ちだ。じゃ、早速行ってこい、ツナ、」 チーム分けにハルと獄寺が文句を言っていたが、リボーンは相手にしなかった。綱吉とペアで、の気分は少し上昇したらしく、ここまで来てしまったらもう行くしかないとはぎゅっと手を握った。綱吉に行こうと声をかけると綱吉も観念したらしく、そうだねと歩き始めた。出発前に、ちらりと京子の方を見て。 ――やっぱり京子ちゃんが良かったのかな。 そう思いながら、は綱吉と並んで四階を目指した。二階、三階、四階と階が上がるごとに嫌な雰囲気になっていく。足元には元が何だったのか分からない瓦礫のようなものが転がっているし、天井の蜘蛛の巣が気持ち悪い。今のところヘンなものには遭遇していないが、変な緊張で歩みが遅くなる。 「なんだか……いかにも、な雰囲気だね」 怖いのを紛らわそうとが話しかける。 「そう、だね……わっ!!」 「きゃっ!な、な、何!?」 綱吉が驚いたのにつられて、も飛び上がった。綱吉が指差すところを見ると、さっと小さなものが走り去っていった。 「ネズミかぁ。びっくりした……」 何か得体の知れないものでなくて良かったと二人は胸をなでおろした。 「綱吉、早く印を見つけて戻ろうよ」 「うん」 けれど、印が四階のどこにあるのか分からない。いくつかある部屋を順番に見て回るしかなく、今いるところから反対がわの端まで一つ一つ部屋を空けていくことにした。たいていの部屋は空っぽで何もなく、埃が落ちているだけだった。調度廊下の真ん中辺りにある部屋のドアを開けると、その部屋だけ物置のように色々な物が雑多に置かれていた。 「……この部屋っぽいね」 と綱吉は頷きあって、恐る恐る部屋へ足を踏み入れた。一歩踏み出すごとに埃が舞い上がる。床から天井まで積み上げられた机やダンボールの中から何か飛び出してくるんじゃないかと、あまり考えたくはないのに勝手に想像が働いてしまう。今のところボンゴレの紋章は見当たらない。もっと奥にあるのかもしれないと思ってが積み上げられたダンボールの影を覗き込んだ時だった。 怪しく赤く光るものが二つ、の目に飛び込んできた。 「やっ、」 「わっ、何!??」 飛び上がって、縋りついて来たを反射的に受け止めた綱吉がダンボールの影を覗き込むと、赤い光が目に入り、すぐに思わず目を逸らした。 ――何!?何なの!?あんまりよく見たくないけど…俺がしっかりしなくちゃ。 腕の中で小さくなっているを怖がらせてはいけないと、綱吉は思い切って顔を上げた。落ち着いて見てみると、赤く光っていたのは小さな電球だった。電球だと分かってしまえば怖くはなかったが、電球の置かれていた場所が悪かった。人体模型の目のくぼみ。そこに電球はあった。綱吉は思わず声を上げそうになるのをこらえて、の肩を叩いた。 「、ただの電球だから、大丈夫だよ。きっとリボーンの悪戯だよ。人体模型に仕掛けとくなんて悪趣味だなぁ、リボーンのやつ」 「……でんきゅう?」 「うん。あれ、何かある……印だ!」 よく見ると、人体模型の手に紙が握らされていた。そっと取り上げると、確かにそこにはボンゴレの紋章が書かれていた。 「よかったー!、早く一階に戻ろう」 「うん。――あっ、ごめん!」 「ううん、気にしないで」 光が電球だったこと、骨は模型だったこと、そして印が見つかったことにほっとして、は自分が綱吉に抱きついていたことに気がついた。が慌てて離れると、綱吉は照れくさそうに笑った。 「戻ろっか」 光に驚いて抱きついてしまった恥ずかしさを誤魔化すように、は先立って歩き出した。恐怖のピークを通り過ぎたのと仕掛けが分かったのとで怖さは半減していた。ずんずん進んでいくの背を見て、綱吉は少し意外だな、と思った。銃が得意で、戦闘でも怯むことのないが肝試しであんなに怖がるなんて。綱吉は彼女の意外な一面を見た気がしていた。 「綱吉、あの…お願いがあるんだけど」 一階につく手前の階段の踊り場で、が立ち止まった。 「何?」 「さっきのこと、みんなには言わないで。その…恥ずかしいから」 「うん、分かった。言わないよ」 「ありがとう」 綱吉の返事に、はほっとして微笑んだ。その表情に綱吉は一瞬どきっとした。 ――いやいや、俺が好きなのは京子ちゃんだから! 自分にそう言い聞かせて、綱吉はの横に並ぶ。リボーンたちの姿が見えると、二人は手を振った。 肝試しを終えて黒曜ランドから並盛町への帰り道。 「楽しかったですね、ちゃん!」 「そうだね、ハルちゃん」 結局、・綱吉チームの順位は3位、つまりビリだった。始める前はあんなに憂鬱だったのに、終わってみたらそんなに悪くなかったかもしれない。そう思うのは綱吉が一緒だったからかな、とは思う。 「あれ…ちゃん、顔赤いよ」 「……そうかな?」 顔が赤いのはさっきのことを思い出した所為だが、はそのことは黙っておくことにした。 |
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