5.ゆるやかな日常へ が転入して来たのは三日後、水曜日だった。 季節外れの外国からの転入生。はクラス中の注目を集めた。休み時間は必ず数人に囲まれて、あれこれ質問攻めになっていた。 授業が全て終わり放課後になって、はようやく解放された。HRが終わるとは綱吉達の所へ駆け寄ると、すでに獄寺に山本、京子が集まっていた。 「ちゃん、凄い人気だったね」 「うーん…そんなんじゃないと思うけど。転校生が珍しいのかなぁ、こういうのって初日だけだよね。…えっと、京子ちゃんだよね。よろしくね」 「うん、こちらこそ」 京子につられても笑う。 ふわふわした笑顔を浮かべる京子をはすぐに好きになった。優しくて可愛い女の子。仲良くなれる予感がする。 「綱吉たちと同じクラスでよかった。えぇと…山本くんもよろしくね」 「おう!」 獄寺は不満を前面に表した顔でそっぽを向いている。まだ婚約者候補としてしばらく日本で過ごすことになったということしか話していないのにそんな態度をとられてしまうことには困っていたし、多少ショックでもあった。獄寺に声を掛けるかどうか迷って、結局は声を掛けなかった。この前約束した勝負次第で彼の態度も変わるだろう。もあっさり負けるつもりはなかった。 「なぁ、ってツナと知り合いなのか?」 「あ、うん、ちょっとね。今度話すよ」 答えたのは綱吉だった。どうやらこの場で言われたくないらしく、言葉を濁した。 「綱吉たちはもう帰るの?」 「うん。さ…じゃなかった、は?」 「私、今日はまだ残ってる。先生と面談があるし、色々見ておきたいから」 「それじゃあ、また明日だね。バイバイ!」 教室を出て行く綱吉たちを見送ってから、は鞄を肩に掛けた。担任に言われた時間まではまだまだ余裕がある。空いた時間では校内を一周することにして教室を後にした。 校内をあっちこっち回り、は最後に屋上に向かった。 一応立ち入り禁止とドアには書いてあったが、鍵はかかっていない。ドアノブをつかんで重たい扉を開ければ、秋晴れの空が視界に広がった。風が気持ちいい。 はフェンスのあるところまで行き、そこから街を眺めた。長い間イタリアで暮らしたには、日本の街がなんとなく懐かしく感じられた。 リラックスしていたのも束の間、不意に不穏な視線を感じては勢いよく振り向いた。 「誰!?」 「君こそ誰だい?見慣れない顔だね」 そこにいたのは学ランを着た男子生徒だった。腕には風紀の腕章がある。普通の学生とは違う雰囲気だった。どちらかといえば、自分たちマフィアに近い存在だとは思った。 「今日、転入してきたばかりだから…あなたは?」 「僕のことを知らないヤツなんて新鮮だね。風紀委員長さ」 風紀委員長?そういえばクラスメイトが教えてくれたのを思い出した。風紀委員長の雲雀恭弥には近づかないほうがいいよ、と誰かが言っていた。 どうもただの委員会ではないことをは悟った。警戒を解かないを見て、雲雀はすっとトンファーを構えた。それに遅れずにも鞄に忍ばせておいた武器に手を掛ける。睨み合いが続く。 構えられた雲雀の手に、は光る物を見つけてはっとした。ボンゴレリングだ。彼が綱吉の言っていた雲の守護者の雲雀さん、ということらしい。まさか守護者とこうして対峙するとはは想像していなかった。 「どうやら君、そこそこ強いみたいだね。さてはあの草食動物の一味かな」 「草食動物?」 「確か沢田綱吉って言ったかな。ねぇ、ちょっと腕試しさせてよ」 返事をする間も与えず、雲雀はに向かって加速してきた。は銃を鞄から引き抜くのと同時に鞄を地面に投げ捨てる。そしてすばやく銃を構えある一点を狙って連射した。 キィンという金属音が響く。 「わぉ、なかなかいいね、君」 呟いて雲雀は加速を止めた。の撃った弾は全てトンファーを握る雲雀の左手ぎりぎりの部分に当たっていた。怪我はなくても多少の痺れはあるはずだ。 雲雀は本気でやりあうつもりはなく、ただ本当にの実力を測りたかっただけのようだ。あっさりトンファーをおろした雲雀を見ては安堵した。無意味な戦いで血を流し合いたくはなかった。 「今日のところはここまでにしておいてあげるよ。君もあの草食動物と同じでそこそこ楽しめそうだ」 なぜ綱吉を草食動物と呼ぶのかにはひっかかったが、訊けなかった。背中を向けて屋上を去っていく雲雀をはじっと見つめていた。 ふと、雲雀が振り返った。 「そうそう、忘れるところだった。君、名前は?」 「……」 「そう。じゃあね」 そうして彼は屋上から去っていった。はしばらく呆然としていたが、チャイムの音が響いて我に返った。時計はちょうど担任との約束の時間を指している。 は急いで鞄を拾うと、これから待ち構えている日常生活を想像しながら屋上からの階段を駆け下りていった。 |
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