11.

 午前中の最後の古典の授業が終わり、チャイムが鳴ると同時に、の携帯が震えた。 『すまん』というタイトルに、本文は『今日の昼ダメやー』とだけ書かれたメールは、廉造からだった。 早く昼休みになればいいなと思いながら午前中を過ごしたは、肩を落とした。
「なんや、どないした?」
「ううん、なんでもない。廉造、お昼来れないって」
「そか。なら子猫丸んとこ行って、学食行こうや」
「うん」
 昼休みは無理でも、放課後はたぶん一緒に帰れる。気が急いてしまっているだけで、放課後だって何にも問題ない。
 は竜司と一緒に、子猫丸のクラスへ行くと、そのまま三人でお昼を過ごした。
 放課後になって、が帰り支度をしていると、クラスメイトに呼び止められた。
「ちょっといいかな。学園祭のことなんだけど……」
 が休んだ金曜日、クラスの出し物は脱出ゲームに決まったそうで、今日からその準備作業が始まるのだという。 不在の間には大道具や小道具を作り係りに入れられ、用事がない日はできるだけ参加して欲しいと言われた。 学園祭までは二週間と、時間がないのでとにかく協力して、急いで仕上げないといけない。
普段、祓魔塾を優先してあまりクラスの集まりに行けていないとしては、これは協力しないわけにはいかなかった。
「分かった、やるよ!」
「ありがとう!助かるよ〜。じゃあ早速こっち来て来て!」
 はぐいぐい腕を引かれ、クラスメイトたちの輪に入った。結局、この日は設計と買出しに目一杯で、廉造には会えなかった。

 学園祭までの二週間、たちは高校の授業に祓魔塾の授業、学園祭の準備にと大忙しだった。 お昼や放課後に四人で集まることも減り、それぞれのクラスで過ごすことが多かった。 もちろん、祓魔塾の授業があるときは顔を合わせるが、二人になることはなく、はなかなか廉造に話を切り出せなかった。 できれば二人のときに、直接本人に言いたいと思っていたは、携帯の画面に表示された日付を見てため息をついた。 学園祭はいよいよ明日からだ。 ダンスパーティは二日目だから、もうチャンスは明日しかない。
 どうやら廉造は、ダンスパーティのパートナーを決めていないらしいと、クラスの出し物の準備中、竜司が教えてくれた。 女の子たちから何回か誘われたものの、全て断っているという。その話を廉造から聞いた竜司が、女の子大好きな廉造がどないしたんや、と聞くと、 廉造は誘う子決めてはるから、と言っていたというのを聞いて、は心臓がはねた。もしかしたら、という気持ちと、誰か別の人かもしれないという気持ちが、 の中で渦を巻いていた。

 翌日、開会を告げる花火が鳴ると学園祭がスタートした。
 はクラスの受付や差し入れの買出しを手伝ったりしながら、正十字学園での初めての学園祭を楽しんだ。  ただ、まだ廉造と話せていない。 何度かクラスを覗いてみたものの姿がなかったり、お客さんの相手をしていたりして、なかなか捕まらない。 どのクラスも外からのお客さんで混んでいるし、祓魔師は候補生も含めて警備の仕事が割り当てられているから、忙しく動き回っていることは想像に難くなかった。 この調子ではとても話せそうになく、は廉造にメールすることにした。
『放課後、ちょっと会いたいです。裏門のところで待ってるから』
 送信ボタンを押して、送信しました、と表示されるのを確認すると、は携帯をポケットにしまい、受付へ戻った。
 HRが終わると、は裏門へ急いだ。
 外からのお客さんの姿はもうなく、通り過ぎる人は疎らだった。石壁に寄りかかって、下校してゆく生徒たちの流れを見ながら、は廉造を待った。 夕日が沈み、一番星が光り始めたころ、校舎の方からばたばた走ってくる音がして、は振り返った。
!遅くなってもうて、ごめんな」
 駆け寄ってくる廉造を見て、はほっと胸をなでおろした。
「廉造!お疲れ様」
「いやー思ってたよりお客さん多くてまいったわ。俺もに話したいことあったのに、全然抜けられへんかった」
 話したいことがあると言われて、の鼓動が高鳴る。
「あっ、あのね、廉造、」
、ちょい待った!……先に俺に言わせてくれへん?」
 もう今言うしかないと思ったが口を開くと、廉造がそれを制した。
 廉造は、ピンクに染めた髪をくしゃりとかき上げてから、をまっすぐ見つめた。 廉造の言葉を待つ短い間も、はもう心臓が痛いくらいだった。
「明日のダンスパーティ、俺と一緒に行ってくれへんか」
 そのときの廉造は、が初めて見た顔をしていた。 廉造野言葉には大きく頷いた。嬉しすぎて、泣きそうなくらいだった。 「――うん。私も同じこと、言うつもりだった。本当に、嬉しい」
「……が怪我したとき、分かったんや。俺がほんまに大事にしたいんは、やって。せやから……彼女になってくれん?」
 は思わず、廉造の胸に飛び込んだ。肩口に顔をうずめて、一つだけ言葉を返した。
「廉造、大好き」
 背伸びして抱きついてくるを、廉造もそっと抱きしめ返す。
「俺も。が好きや」
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