7.

 昼休みになると、竜士がを呼びに来る。席を立ち、携帯と財布だけを持つと、二人は教室を出た。 学食や売店に行こうとする生徒で賑わう中、1-Cの教室の前では、すでに子猫丸と廉造が二人を待っていた。
「どっち行きます?」
「売店にしよーや」
 竜士の希望で、この日のお昼は売店で済ませることになった。昨日のことや、祓魔塾のことについて話しながら、のんびりと売店を目指した。
 この前の放課後から、なんとなくまた四人で過ごすことが増えた。 どちらからともなく、と廉造だけということもあるが、二人ともあの話を切り出そうとはしなかった。 表面上は、何も変わらない。実際にも、二人の関係が険悪になったわけではないが、どこかこれまでとは違う空気が流れていた。
――もし、私とは無理ってはっきり言われたら。八百造おじさんにちゃんと言わなきゃな……。
はぼんやり、そんなことを考えた。

「えー、全員揃ってるかーって、宝がいねーな……うーん、まぁいいか!前もって予告した通り、今日はおまえらには実戦に行ってもらう」
 夜、たち候補生が予め伝えられていた集合場所へ行くと、シュラと雪男が待っていた。 場所は、正十字学園都市から少し外れたところにある、山麓の森である。 昼間に電車から見る分には、緑豊かな森という印象だが、日が落ちてから森の目の前に立つと、なんとなく気味が悪く感じる。
 全員に、聖水と応急処置セット、非常時用の花火などが配られる。候補生認定試験のときと、ほぼ同じセット内容だ。
「まぁ京都のアイツと比べたらぜーんぜん大したことのない小物だけどな、おまえら油断すんなよ! ヤバくなったら話は別だが基本的にアタシらは手ェ出さないからにゃ〜。以上、解散!行ってこい!」
 シュラの合図で、燐を先頭にたちは森へ入っていく。手入れされているわけではないが、踏み均されて道のようになっているところを選んで歩いていく。
「なぁ、適当にぞろぞろ歩くんでないで、ちゃんとした方がええんとちゃう?」
「どういうことだ?」
 竜士の提案に、先頭を歩いていた燐が首を傾げた。
「騎士とか前衛志望のやつが前行って、詠唱騎士を後ろっちゅーか、内側にするとか、そういうことや」
「おぉ、なるほど!ってことは、俺はこのままでいいんだな」
 燐を先頭に、なんとなく隊列を組むように、各々が移動する。燐、出雲、竜士、子猫丸、しえみ、廉造と続き、は一番後ろについた。
「あれ、、後ろなん?」
「うん。後方からってこともあるかもしれないし」
「はぁ〜、確かに!やっこさんが正々堂々前から来るとは限らんもんなぁ」
 は騎士志望だった。子猫丸と廉造は詠唱騎士志望だと聞いたのと、の家は騎士として活躍した人が多いことでは騎士を選んだ。 それに、もし志摩家に嫁ぐなら、も明陀に入ることになる。明陀、そして志摩家の一人として、は前線に立ちたいと思った。 高校に上がる直前に祖父がくれた三日月刀が、の得物だった。
 なんとなくこっちな気がすると言う燐に従って、黙ってみんなで歩いている中、廉造がに話し掛けてきた。
「なぁ、聞いたことある?ここの森、自殺の名所なんやて」
「えっ、そうなの?だから悪魔が出るようになったのかな」
「それか、悪魔が死にとう思ってはる人を集めてる……とか?」
 どっちにしても、話が本当なら人間を喰らうようなタイプかもしれないし、群れを作っているかもしれない。は腰から下げた三日月刀に手を掛けた。
「あれ、なんか広いとこに出ちまったな」
「本当だ。森の中に、こんなところがあるなんて……」
 少し開けた場所に出て、一行は足を止めた。頭上に輝く満月や、ゴツゴツとした山肌が見える。こんな森の中だというのに、虫の声は聞こえず、異様に静かだった。
「ちょっと、これ!」
 何かを見つけた出雲が、声をあげる。出雲が指差したところには、大きめの石のようなものが転がっていた。
「!石じゃないですよ、コレ!」
「……全身が残ってないっちゅーことは、喰われたんやな」
「そんな、酷い……」
 子猫丸は軽く手を併せると、一言供養の詞を述べた。
 よく見ると、出雲が見つけた髑髏の他にも、いくつか骨らしきものがあった。どうやらここが、悪魔の食事場になっているのは間違いなさそうだ。
 燐が背中の刀に手をかけ、出雲も魔法円を描いた紙を指に挟んだ。全員が必ずこの場所に悪魔は現れると確信して、それぞれが身構える。
ガサ、と乾いた音がした。
「!」
――来る!
禿げた山肌から、風を切って大きな鳥のような影が迫ってくる。それはたちの頭上で止まると、キイィと突き刺さるような声を上げた。
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