4.

――次の休み、メッフィーランド……遊びにいかない?
 思い切って、は廉造をデートに誘った。頬が熱いのを自覚していたが、それは太陽のせいだと、は自分にいい聞かせた。目をあげると廉造と視線が交わって、胸が締め付けられた。
「ええよ」
「ほ、本当に?」
「おん。から誘ってくれるなんて、嬉しいわー」
 くにゃりとした廉造の笑顔に、はほっとして顔を綻ばせた。
、アイス溶けてるで」
「えっ、あっ!」
 が慌ててアイスを舐めると、廉造は可笑しそうに笑うのだった。

 土曜日はあっという間に来た。
 一週間、この日を楽しみに待っていたは、よっぽど顔に出ていたのか、竜士にどうしたのか、と聞かれるくらいだった。 が廉造と遊園地に行くと言ったら、竜士は驚いていた。
――小さいとき、一度だけみんなで遊園地連れてってもらったなぁ。
 みんなで遊園地の類いに遊びに行ったのは確かその時だけで、は懐かしいな、と思いながら、待ち合わせ場所へ向かった。 遊園地の前でバスを降りると、すぐに見慣れたピンクの髪が目に入った。
〜、おはよーさん」
「おはよ!早いね?」
 だって、待ち合わせの時間より少し早く着くように寮を出てきた。こういうときに遅刻しないのはさすがだな、とはくすりと笑った。
「俺も今さっき着いたとこやから、別に待ってへんよ。ほな行こか」
 廉造がの手を取って歩き出す。  小さい頃はともかく、男子と手を繋いだことなんかないは、恥ずかしいような、くすぐったいような感覚がして、嬉しい反面落ち着かない気持ちになる。 そんなを察してか、廉造は楽しそうだった。
 もう目の前には、メッフィーランドのメインゲートがある。 土曜日のお昼前ということもあって、それなりの賑わいを見せていた。二人はチケットを買うと、可愛いと言えるか怪しいキャラクターたちが出迎えるゲートを潜った。
「わぁ、すごい!楽しそう!」
「思ってたより色々ありそうやなぁ。さすがあの理事長」
「ね、あれ乗ろうよ!」
「なんや、張り切っとるな」
 が指差したのは、園内を一周するように設計されたジェットコースターだ。が廉造をひっぱるようにして、ジェットコースターの列に二人は早速並んだ。

「楽しかったぁ!遊園地って小さいときに来たっきりだったし」
「もしかして、坊と子猫さんと一緒に連れてってもろたやつ?」
 ジェットコースターに、タワーホール、お化け屋敷にちょっとしたクルージングと、ひとしきりのアトラクションに乗っていると、あっと言う間に夕方になった。 少し休憩しようと、二人はベンチに座って、売店で買ったポップコーンを食べていた。
「うん。だから色々新鮮だったよ」
が楽しそうで、俺も良かったわぁ。あ、そう言えば、」
「ん?」
「ちっさいとき、、観覧車に乗りたいって最後に言って、時間切れで乗れへんかったの覚えとる?」
 言われてみると、そうだったような気がする。 記憶をたどると、確かには観覧車に乗りたいとだだをこねて、柔造にまた次に来たときにしよう、と宥められていた。
「……そういえば、そうだったね」
「やろ。せやから、乗らへん?」
「観覧車に?」
「おん」
 廉造が観覧車を指差す。カラフルなゴンドラが、夕日の中をゆっくりと動いている。
「乗り、たい」
「ほな行こか」
 は少し迷って、頷いた。
寮に帰る時間を考えると、観覧車に一回乗って調度いいくらいになるはずだし、せっかく廉造が言ってくれたんだからと、乗ることにした。
 廉造は空になったポップコーンのカップをくずかごに捨てると、の手を引いて観覧車に向かった。

 観覧車に列は出来ておらず、すぐに乗ることができた。 係員の誘導にしたがって、桃色に塗られたゴンドラに乗り込むと鍵がかけられる。いってらっしゃいと係員に見送られ、ゴンドラは円に沿ってゆっくりと上昇していく。
段々と高度が上がるつれて、不思議とどきどきしてくる。は眼下の景色から目を反らした。
「……もしかして、怖かったん?」
「ううん、大丈夫」
「そか、良かった。あっ、、学校見えるで」
 廉造が指差す方を見ると、毎日通っている校舎がぽつりと見えた。 八百造から廉造の許嫁にならないかと言われなければ、があの正十字学園に通うことはなかった。
 高校に上がる直前、京都で廉造に会ったとき、廉造は『はそれでいいのか』と聞いた。は『廉造ならいい』と答えた。 はただ、話を承諾してもいい、ということしか言っていないのだ。
――ちゃんと伝えたい。私、自分の気持ち、言ってない。
「廉造、」
「んー、どないした?」
「私、廉造が好き。……だから、八百造おじさんの話を受けたの。私は、廉造と一緒にいたい」
 観覧車は一番高い点をゆっくりと通過し、登りと同じ速度で降下を始める。
の告白に、廉造は特に驚いた顔も、困った顔も見せなかった。
「ありがとお。俺ものこと、好きやよ」
「……本当に?」
 本当にそうなら、笑ってくれていいはずだが、廉造はいつになく真面目そうな顔だった。 これから何を言われるのか、聞かなくても大体の予想はにもつく。自分と廉造の気持ちは同じものではないと、分かっていた。
「嘘じゃあらへんで。ただ、許嫁とかそういうんを今決めるのは、俺にはでけへん。お嫁さん決めるって、将来決めるんと同じことやん。……それに、まだ彼女作る気ないねん」
「……うん」
 分かっていたことなのに、正面から聞くと、胸が痛かった。
――要するに廉造は、のことはそれなりに好きだが、まだ色んな女の子と遊びたいと言っているのだ。
「堪忍な」
「ううん……分かってたことだから、いいの。私が言いたかっただけだから」
 は本当は泣いてしまいそうなのを堪えて、無理をして笑顔を作った。廉造にバレていない訳はないが廉造は何も言わなかった。
ガタン、と音を立てて、ゴンドラが地上に帰ってきた。行き道とは逆に、おかえりなさい、と係員がドアを開けてくれた。
「ほな、帰ろか」
「うん」
 来たときと同じように、廉造はの手を取るとメインゲートへと歩き出した。
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