3.

 春はあっと言う間にすぎ、季節はもう夏に差し掛かった。梅雨明けの日差しは強力で、連日最高気温を更新している。
 たちは高校と祓魔塾の両方に通う生活にもすっかり慣れて、日々青春を謳歌していた。
――特に廉造は。
塾の授業が終わるなり、廉造は寮へ帰ろうと机を片付けている出雲にすすっと近づいて、デートの誘いを持ちかける。
「なー出雲ちゃん、一緒にプール行かへん?メッフィーランドでもええよ!」
「行かない」
「はぁ〜、今日もつれへんなぁ」
 そこがまたええんやけど、と言ったそばから、廉造は次はしえみに声を掛けに行った。 おそらく出雲に言ったことと同じ誘いをかけているのだろう、しえみが慌てているのをたち3人は遠巻きに見ていた。
 京都を離れ、廉造は髪をピンクに染めたが、はそれはそのまま廉造の色だと思っていた。
「廉造、懲りないね」
「全くですよ。あそこまでいくと、もう尊敬してまいますわ……」
「っちゅーか何なんやアイツ!の前でやらんでもええやろが」
 竜士が怒って、は困ったように笑う。
「仕方ないよ」
 別に付き合っているわけではないのに、廉造にやめて欲しいと言えるわけはない。それに、廉造の気持ちが分からないわけではなかった。
「せやけど、」
 が首を横に振ると、竜士はそれ以上は言わなかった。
「二人とも、先に帰ってて。私、廉造待ってるから」
さん……」
 竜士は廉造を睨みながら、子猫丸はを案じながら、2人は教室を出ていく。廉造は、燐に睨まれているところだ。 廉造としえみの間に割って入った燐の背で、しえみはほっとしたような顔をしている。
――しえみちゃん、いいなぁ。
燐がしえみを好きだというのは、端から見ていてもよく分かる。しえみを守ろうとする燐は誠実だ。
 ただ、しえみとでは話が違う。廉造にとってはは一方的な許婚でしかないのだから、しえみを羨ましいと思っても仕方がない。今のままでは、好きになってもらえるわけがなかった。
 息を落として、小さく深呼吸してから、は明るい声で廉造を呼び、駆け寄った。
「廉造、帰ろう?」
「お、せやな。って、坊と子猫さんは?」
「先に帰ったよ」
「そか。じゃ、奥村くん杜山さん、また明日な〜」
「またね」
 ひらひら手を振りながら教室を出ていく廉造に、も続く。
祓魔塾へは鍵を使って来ることができるが、帰りはそうは行かない。校舎を抜けると、は廉造の横に並んだ。
「うわぁー暑いー!」
「おん…もう溶けてまいそうやー」
 外に出たとたんに、強い日差しが照りつけてくる。アスファルトからの反射も合間って、ぐったりしたくなるほどの暑さだった。
「コンビニでアイス買おうよ」
「ええなぁ、賛成ですわ」
「やっぱり夏はアイスだよね」
 暑い暑い言いながら、と廉造はコンビニに立ち寄った。冷房の効いた店内は天国みたいだ。
少し涼もうと2人はついでにマンガを立ち読みして、それからアイスを選んだ。
ゴリゴリ君にするかチョコバーにするかで真剣に悩んで、結局、はチョコバー、廉造はゴリゴリ君を買った。 アイスケースの前に並んで、アイス1つに2人してああでもないこうでもないと悩めるのが、は嬉しかった。
 ようやくアイスを買ってコンビニを出発したのは、お店に入ってから30分も後だった。
、アイス1つに悩みすぎや」
「廉造もだよ!」
 が言い返せば、廉造もそうやった、と言って笑った。もともと甘い顔をしているが、くったり笑うとそれが際立つ。 は手に持ったチョコバーに、ぱくりと噛みついた。黙々とアイスを食べていると、ふいに廉造がゴリゴリ君を差し出してきた。
、ゴリゴリ君一口あげますわ」
「えっ、いやでも、」
「ええから。俺もそっち貰うし」
 廉造はにゴリゴリ君を握らせると、が反対の手に持っていたチョコバーを持っていってしまった。
ぼうっとしていたら太陽からの熱で溶けきってしまう。は観念して、ゴリゴリ君をかじった。ちらりと廉造を見れば、廉造は特に気にした様子もなく、アイスを食べていた。
――どきどきしてるの、私だけ、なのかな?
廉造が、はい、とチョコバーをに返してきて、もゴリゴリ君を廉造に渡した。
「やっぱチョコもええなぁ。ありがとお」
「う、うん。私も、ありがと……」
 廉造は、特に何かを気にすることもなく、再びゴリゴリ君を堪能し始める。はそんな廉造の斜め後ろを歩いた。
 は、出雲やしえみのように、廉造にデートに誘われたことはなかった。竜士たちと4人で出掛けることはあっても、2人ではない。 それをはもしかしたら嫌われているのかもしれないと思っていた。でも、少なくとも嫌われているわけではないみたいだ。
――ちょっと、頑張ってみよう。何にもしないでいるよりは、いいよね……。
「廉造、」
「んー?」
「あのね、次の休み、メッフィーランド……遊びにいかない?」
 夕焼けが、の頬赤く染めていた。
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