2. ――あれから暫く、問答は続いた。 「ちょお待ち、なんで俺に許嫁が必要なん?五男やで!」 「おまえ東京で色々やらかしそうやからな。ちゃあんとした子が決まってれば安心や」 「いやいやいや、むしろ許嫁が必要なんは柔兄やろ?」 「なに、俺のことなら心配無用だ。が義妹になるんなら大歓迎やしな」 「俺が女の子と遊ぶんが心配みたいな言い方やったけど、金兄にはこんなんなかったやんか!金兄だってモテるやん!何で俺だけ」 「コイツはバカすぎて問題起こすとこまでいかひん」 「お父ひでぇ!でもいいじゃねーか、可愛らしいやん」 「坊を差し置いて許嫁だなんて、そんなんマズイやろ?」 「竜士のことなら気にせんでええわよ」 「俺も一向にかまへんで。がええなら、やけど」 「こ、子猫さん……」 「良いご縁やありませんか。家は祓魔師の家系やし、明陀とも縁がありますし。なにより幼馴染みやないですか」 誰一人として反対しない。むしろこんなに良いことはない、という感じだった。 「なぁ、は?はええんか?」 「私は……廉造なら、いいよ」 恥ずかしそうに頬を染めながら、でもははっきり答えた。まっすぐ向かってくるの眼差しに、たじろいたのは廉造の方だった。 「廉造、おまえ女の子がこう言ってるっちゅーのに、」 「八百造さん待ってください。廉造は、やっぱり嫌?私じゃダメかな……」 「いやが嫌なんやないで!ただ、」 「そんならええやないの。今は納得行かへん思ってはるんやろけど、そんなんはどうにでもなりますえ。4月から同じ学校に通うんやから」 「せやかて、」 「やかましいわ!おまえちゃんの気持ち考えろ。この場はもう解散や」 八百蔵が腰を上げ、この場はお開きとなった。大人たちは部屋を後にし、と廉造、それに竜士、子猫丸が残された。 は何も言わず、不安げに廉造を見つめている。竜士も子猫丸も、声を掛けれずにいた。 だって、この縁談が荒唐無稽なことは理解しているつもりだった。もしかしたら嫌われてしまうかもしれないと思いながら、それでも廉造に会いたくてここに来た。いまさらやっぱり来ない方が良かったのではないかなど、考えたって仕方がない。 「……廉造、」 「は、なんでこんなん納得したん?」 「それは、」 ――廉造が好きだから。 ただそれだけだった。 が理由を言えずにいると、廉造はまぁええわ、と言いながら身体を伸ばした。 「こんなん気にしてもしゃーないわ!まぁなんとかなるやろ。気にせず高校生活楽しも」 「志摩さん……」 開き直ったらしい廉造を、子猫丸は心配そうに見つめ、竜士は頭を抱えた。とてもじゃないが八百蔵らの思惑どおりにはいきそうにない。むしろ厄介事の種を作っただけではないかと思えた。 「……そうだね。楽しみだね」 は気にしたそぶりを見せずに笑顔を作ってみせる。長い間離れて暮らし、連絡すらろくに取っていなかったのに、廉造の態度を咎めるようなことはできなかった。予想はしていたことだったが、想像していたよりも胸が痛い。 「そや、久しぶりにきたんやし、会わんかった間のこと話そうや。、今日はうちに泊まるんやろ?」 「あ、うん。今日は虎屋にお邪魔します。明日帰るよ」 「のんびりしてき」 竜士が気を利かせて話題を切り替えると、3人はそれに乗っかった。 日が暮れるまで虎屋の近所をぶらつきながら、他愛もない話をした。竜士が反対を押しきって正十字学園に入学を決めたことや、金蔵のバンドの話などを聞いて、はみんな変わっていないと思った。また、そこに自分もいられたら良かったのに、とも思った。 ――これから、だよね。 廉造は婚約話を適当に流そうとしているが、それは当然の反応だとにも分かる。不満はあるだろうが、自身を拒絶したわけではなく、こうしてまた幼馴染みとして接してくれている。 今はそれでも十分だ。 4人は影を並べ、虎屋に帰った。 |
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130714