好きと反抗



俺たちヴァリアー幹部の最近の注目ごとは、ボスと一人の少女だった。
数年前にヴァリアーに半強制的に入隊し今では幹部の一人となったは、一言で言うなら才色兼備なヤツだ。ボスであるザンザスが彼女をあの手この手で口説くものの、はなかなかなびかない。の方もザンザスが嫌いなわけではなく、むしろあいつもザンザスが好きなんだと思う。にも関わらず、話が一向にまとまらない。
二人が一体どうやってまとまるのかその行方を日々見守っている、ってわけだ。


「はぁ、」
となりでがため息をついた。机に伏せてどうすればいいの、と唸るの悩みは聞くまでもなくクソボスことザンザス絡みに決まっている。こっちにしてみれば、何をそんなに悩む必要があるんだという感じだ。てめぇもザンザスが好きなんだろ、ならそれでいいじゃねぇか。そう何度言っても、はうんと言わない。
「ねぇスクアーロ、私どうしたらいいんだろう?」
それでこんなことを言うのだから困ったもんだ。
「おまえなぁ、そんなこと俺が知るわけないだろぉ。つか何でそんなに拒否るんだよ?好きなんだろ?」
「……だって、」
「あ?」
「恥ずかしいんだもの!こ、こういうの初めてだし、ボスはなんか慣れてるし、か、からかわれてるだけかもしれないし」
「あー……」
一息に言い切ったの顔は真っ赤だ。よりによって初恋か。その相手がザンザスっていうのは趣味悪ぃんじゃねーの、と思ったことは黙っておく。ぎゃーぎゃー言われるのはごめんだし、そんなところをクソボスに見られでもしたら余計な嫉妬を燃やされちまう。そんなとばっちりはいらねぇ。それにしても、戦闘技術もなかなかで賢い上に美人だとヴァリアー内外で評判のコイツが実はこんな初心な小娘だと、実際にコイツを知らないやつには想像もできねぇんだろうな。
「恥ずかしいっていうか怖いっていうか……とにかく、どうしたらいいかわからないよ」
俺は内心、あのクソボスに同情した。あんだけ大事に接していても肝心の相手がこれじゃあ難儀するだろう。ザンザスに女がいたことは何度かあったが、俺の知る限りでは長続きしてなかったし、恋人なんてものではなく、ただ暇つぶしのための関係に見えた。そんなザンザスが強引に手を出さずにいるのは、相当入れ込んでる証拠じゃねぇかと思う。
「なぁ、そんな構えなくたっていいんだぜぇ。俺はボスがてめぇを悪いようにするとは思わないぜ、受け入れろよ」
「……うん、頑張る」
「おー」
よしよし、がザンザスを受け入れられるようになれば話はそれで解決だ。
「ま、頑張れ。じゃあ俺はもう行くぜぇ」
のやる気も出たことだしそろそろ任務に向かおうと俺は腰を上げた。去り際に頭をぽんぽんしてやるとは小さく微笑んで、いってらっしゃい、と言った。そういう顔はザンザスに見せてやるんだな。
談話室を出て行こうとしたら、ザンザスがすれ違いに中へ入っていった。ザンザスは俺の方をちらりと見はしたが、何も言わなかった。たぶん、を探しに来たんだろう。このまま任務に出てしまおうか迷ったが、結局扉の影に身を潜めることにした。心配というかなんというか、とにかく気になっちまうんだからしょうがねぇ。ザンザスは俺がここにいることに気づくだろうが、別に気に留めないだろう。
「スクアーロと何を話していた?」
「それは、えっと、」
そりゃ言えないだろう。もしが『ボスにどう接していいかわからないって相談してたんです』なんて言えるような性格なら、とっくに二人は恋人同士だろぉよ。
嘘をついて誤魔化すということができないは押し黙ったまま不安そうな表情でザンザスを見つめている。
「なんでもありません。ちょっと相談を、してただけで」
「悩みだの不満だのがあるなら言ってみろ。聞いてやる」
……まぁ、きっとクソボスなりの優しさなんだろう、とは思う。だが今のにそれは逆効果だ。そんなのありません、失礼しますと呟いてその場を離れようとしたの腕を掴もうと、ザンザスの手が伸びる。だがその手は宙を掴み、はヴァリアー指定のコートを翻してすぐ横の窓から外へ飛び降りていってしまった。逃げるの早ぇよ……さっき頑張るって言ったばっかじゃねぇか、もうちっと頑張れよ。
「ごめんなさい!」
外から一言謝る声が聞こえると、ザンザスはちっと舌打ちをしてそのままソファにどかっと腰を下ろした。表情こそいつもと変わらないが、内心どうしたものかと考えているに違いねぇ。
今日も二人の攻防は平行線で、進展なしと。見届けたところで、そろそろ本当に任務に出るとするかぁ。今日もフラれたザンザスの八つ当たりを受ける前に。

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