緩和少女 「、ちょっと来い」 「何?」 「いいから来い」 スクアーロにぐいぐい腕をひっぱられて、連れてこられたのはボスの執務室だった。このところ忙しいって言っていたから近づかないようにしていたのだけれど。デスクワークがあまり好きではない人だから、たぶん機嫌がよくないはずだ。それなのにスクアーロはノックもなしにドアを開けると、間髪入れずに私を中に放り込んだ。 「スクアーロ!?」 「よし、頑張れよぉ」 何を!? 聞く間も与えず、すぐにドアは閉められた。おそるおそるボスの方を見ると相変わらずの仏頂面がこちらを見ていた。 あぁ、怒られそう。 「あの、スクアーロが、急に」 「カス鮫が。……まぁいい、手伝え」 言われるなり、分厚いファイルを渡された。15cmくらいかな。まぁ、とりあえず叱られなくてすんだ。 寄越されたファイルには数年前までのターゲット情報がぎっちり詰まっていた。こんなものを今になってなんで?と思っていると、手書きのメモが飛んできた。 「そいつのページを探しとけ」 「はい」 関連情報でも集めてるのかな。ボスからそれ以上の説明はなく、私は黙ってページを繰った。膨大な量の中から1枚の紙を探すのはなかなか大変だ。ファイルの中身は名前順ではなく案件順にならんでいるから、一枚一枚確認するほかになかった。 ひたすらページを送り続け、ようやく見つけたときにはもう1時間も経っていた。指がじわじわする感じがする……。 「ボス、ありました」 「寄越せ」 「はい」 ファイルを渡すと、ボスは開いたページに目を通しそのページにメモを挟み閉じた。 その動作から、疲れているんだということが伺える。あんまり休んでないんだろうなぁ、こういう雑務は誰か他の人にやってもらえばいいのにと思うけど、そうはいかない理由がきっとあるのだろう。 「あの…他に何か手伝いますか?」 すぐに返事はなく、数秒沈黙が場を支配した。私は黙ってボスからの指示を待つ。ボスは何か考えているのか、腕組みをしたままだ。 「こっちに来い」 「?はい……っ、な、何ですか!?」 言われたとおりボスに近寄るったら、急に抱えあげられた。思わずじたばたしたけれど、ボスはそんなことで動じたりしない。私を抱えたままボスは執務椅子に腰を下ろして、私は膝の上に下ろされて後ろから抱きしめられるような体勢になった。心臓が刻む鼓動が早くなる。 「あ、あの、ボス?」 「うるせぇ、黙ってろ」 「……」 な、なんなのかな。 身動きは取れないし、何か話すこともできない。もしかしてスクアーロの言っていた「頑張れよ」ってこういうこと?何考えてるのあの人!頑張れって言ったって、ドキドキするばっかりでどうしようもない。……ボスに聞こえてない、よね。 そっとボスの表情を覗くと、心なしかさっきまでよりも少しだけ機嫌が良さそうに見える気がする。それを見たらしばらくこのままでもいいかなぁと思えてきて、大人しくボスの胸に身体を預けてみることに決めた。一度そうしてしまえばさっきまでの緊張が嘘みたいに解けていって、何となく心地いいような不思議な感じが身体に広がった。 「は?」 「執務室にいるぜぇ」 「何で?」 「ストレス緩和係だぁ」 「……なるほどね、納得」 |
101219