「はっ?」 思わず間抜けな声を出してしまった。だって、そんな、こんな部屋割りは、絶対に、おかしい。 「は?じゃねぇ。てめぇのこっちの部屋だ、分かったらさっさと入れ!」 「諦めるのね、」 ボスが指したのはツインルーム。スクアーロとルッスーリアが同室でもう一つのツインルームを使う。他に部屋は取っていない。ということは私と同室なのはボス、ということになる。実際ボスはもうその部屋を使っていたし、何度思い出してみても空いてるベッドがあるのはその部屋だけで、余っているのも私だけ。 任務中どうしても一般のホテルに泊まらないといけないことになって急遽部屋を取ったんだけど、おかしなことになった。 私はてっきりというか、当然スクアーロとボスが同室なんだとばかり思っていたから本当に驚いた。っていうか普通は男女は別々の部屋で休むものではないでしょうか。ヴァリアー幹部の一人と言えども、私だって一応女の子なんですけど……。 「な、な…なんで私とボスなんですか!?普通は男女別じゃあ…!」 「こんなうるせぇのと同じ部屋なんか使えるか」 そう言い捨ててボスは部屋へと消えていった。そんな。 「ま、文句ならマーモンに言うんだなぁ。予約とったのあいつだしな」 言いながらスクアーロは私をツインルームに押し込めた。ぱたりとドアが閉められる。背後でガサガサと音がして、ボスがジャケットを脱いで投げ捨てたのが伺える。あああ、どうしよう。ボスと同じ部屋で一晩過ごすなんて。何もないって分かってても、変な緊張が身体を支配した。 部屋に入ってすぐにシャワーを済ませて、空いていたベッドに腰掛けて銃を取り出した。不備がないかチェックをするためだ。私が戻ってきたのを見てボスが腰を上げた。先にシャワーを譲ってくれたのは気を使ってくれたから、なのかな。私が後で良いと言ったら、うるさい黙れとシャワールームに押し込まれたのもボスなりの気遣いだと思うとちょっと嬉しくなって、なんだか頬が緩む気がした。 ほどなくしてボスが戻ってきた。その頃には私も整備を終えていた。 時計は12時少し前を指している。あとはもう寝るだけで、もぞもぞとベッドに潜り込んだ。まだ眠れる感じはしなくて、目を開けたままぼんやりと考え事をしてしまう。 ボスはどうして反対しなかったんだろう。確かにこのメンバーじゃ私が一番静かだろうけど、他人と同じ部屋で一晩などは絶対に嫌がりそうなのに。ただ仕方がないからなのかな。あのボスなら、スクアーロあたりに一晩くらい外で過ごせと言いそうなのに。 ボスの方をちらりと伺うと、備え付けのソファでグラスを揺らして寛いでいるようだった。時計のカチカチという音以外は話し声もテレビの音も聞こえず静かで、話しかけるのを躊躇った。ボスと同室で一晩。改めてその事を考えてしまう。ボスは普通にしているのに、私ばっかり意識してバカみたいだ。 ダメだ、とても眠れそうにない。 もぐったばかりのベッドから抜け出して掛けてあったコートを掴んだ。ちょっと散歩でもして頭を冷やしてこよう。 「私、ちょっと出てきます。ボスは休んでてくださいね!」 バタンとドアを閉めて、逃げるように部屋から出てしまったけど行くあてはなかった。外にはもう出られないし、ロビーにはきっと人がいる。スクアーロ達はもう寝てるかもしれないから、行って起こしてしまっては悪い。それなら選択肢はもう一つしかない。階段を上って屋上へ。ドアには鍵が掛かっていたけれど、それは簡単に外せた。重い扉を押し開けると冷たい風が頬を撫でた。 「はぁ…どうしよっかなぁ」 屋上で星を眺めながら独り言をもらした。冬の星空はきれいで、冷静になれる気がする。 まぁ、どうしようかなと言っても、どうしようもないんだけど。大人しく部屋に戻って、自分のベッドに潜って目を閉じればいい。何も気にすることはない。そう、ないはず……なのに気にしてしまうのは、私が何か期待してしまっているから。 いくらボスが好きだからって何考えてるんだろう? 「あーあ、私ってば馬鹿なんだから」 「そうだな」 「!!!!」 独り言のはずだったのに、相槌を打たれた。びくっとして振り向くとそこにいたのはボスで、私は固まってしまった。そんな私の腕を掴むと、ボスは私を引きずるようにして歩き出した。 「ぼっ、ボス?どうして……」 「てめぇがいつまでも戻ってこねぇからだろうが、このバカが!」 ええぇ、そんなに時間経ってたのかな…というかそれでわざわざ来てくれるなんて。言ったらきっと怒られるけど、嬉しいと思ってしまう。 部屋に戻ってコートを置いて寝ようと思ったときだった。 ぐいっとまた腕を掴まれたかと思ったら、すぐにぽいっと放り出された――ボスの方のベッドに。 「…………」 どうして?場所替えしたかったから?分からなくって、私はただ目を丸くする。ボス? 「!!えっ、えぇっ!?」 ただでさえ頭が働かないのに、さらに私の脳の回転速度は落ちた。すぐ隣にボスがいる。なんで同じベッドに、入るんですか、ボス。 「うるせぇ、とっとと眠れ」 「で、でも。なんで」 私の目を覆うようにボスの手が顔に触れた。 「、てめぇ、放っといたらまたどっか行くだろ」 「いやいや、そんなことは!」 「いいからとっとと寝るんだな」 会話がかみ合わないまま照明が落とされて、部屋は真っ暗になった。そしてまるで私を閉じ込めるみたいにしたまま、ボスは瞳を閉じて眠りにつこうとしている。緊張やら恥ずかしさやら、いよいよ分からなくなった。身動きも取れず、私はもう1ミリも動けないような気がしている。 もうこうなったら寝てしまうしかない。 一秒でも早く寝てしまうために、私はぎゅっと目をつぶった。 闇に融ける |