絶対周波数 真夏の夜、私はとある古城で開かれているパーティーに綱吉と訪れていた。石造りのお城の中はクーラーがなくても涼しく、吹き抜ける風が心地よく感じられる。 会場は狭くはない広間なのに、着飾った人たちで溢れ返っているせいかそれほど広さを感じない。華やかな人々の中を見知った顔の人を探してスルリと抜けていく綱吉の後を私はついて歩いていた。今日はディーノさんやエンマ君も出席しているはずだ。誰かいないかときょろきょろしていたら、綱吉が私の肩に触れて、少し離れた所を指差した。 「向こうにいるの、エンマ君じゃないかな」 「え、どこ?」 綱吉が指す方を見ようにも、周りの人よりも背の低い私には背伸びをしてもよく見えない。どうにか確かめようとしているうちに、前方不注意になっていたらしく、目前を長身の美女が通ろうとしていることに気づかなかった。ぶつかる、そう思って慌てて身を引く。 「わっ、」 危なかった。あと一歩踏み出していたら彼女の足を踏んづけて、彼女を巻き込んでそのまま床に倒れ込んでいただろう。寸でのところで何とか踏みとどまることができて、私はドキドキいっている胸を押さえた。美女は目を見開いている私を見ながら、ごめんなさいね、と申し訳なさそうに笑うと人波の間に消えていった。彼女の揺れるドレスの裾を見送って、改めて前を向くと――そこにいたのは知らない人だった。私が背伸びをしたり転びそうになったりしている間に、綱吉はエンマくんのところに行ってしまったみたいだ。やってしまった、綱吉とはぐれた。 さっき綱吉が指していた方を目指すも、紳士淑女でごったがえした会場の中から綱吉の姿を探すのは大変だ。たぶん、綱吉は私のことを探しまわらず、エンマ君と話しているだろう。こんなところでお互いにうろうろしていたら、余計に会えなくなってしまうのは当然だし、一人でいる私よりも、二人でいる綱吉とエンマ君の方が探しやすいはずだから。綱吉もきっとそう考えるはずだ。 それにしても、周りは背の高い人ばかりだし、男の人はみんな同じような黒いスーツ姿で、目的の人を探しにくい。おそらくこの近くだろう、という辺りまでは移動してきたつもりだけど、まだ姿は見当たらない。 『…………、……リアに……』 ため息をつきそうになったとき、微かに私の名前が聞こえた。綱吉の声だ。一度捕まえた音は、こんなに沢山の声がする中でも不思議と耳に入ってくる。 人を避けながら声のする方に向かうと、見慣れた後ろ姿と懐かしい顔の人が談笑しあっていた。私に気づいたエンマ君が、手を振ってくれる。 「エンマ君、綱吉」 「ちゃん、久しぶりだね。元気そうで良かった」 「!ごめん、俺、とはぐれたのに気づかなくって……でも、探しにも行けなくて」 「ううん、いいの。ちゃんと見つけられたから」 そんなに深刻なことじゃないのに、心底申し訳なさそうに謝る様子はなんだか犬みたいで、ちょっと可愛いなんて思ってしまう。可愛いって言うとしょげてしまうから、本人に言いはしないけど。エンマ君と視線を合わせると、彼もそう思っているのか、くすりと笑った。 「合流できてよかったね。こんなに大勢の人がいて、探すの大変だったんじゃない?」 「少し。でも、声が聞こえたから。不思議だよね、一回綱吉の声だって思ったら、すっと耳に入ってくるの」 「ああ、大事な人の声ってすぐ分かるよね。僕も仲間の声ならすぐ分かるよ、どんな雑音の中でも」 私も綱吉も、エンマ君の話に頷いた。それはきっと、心が繋がっている証拠だと思う。エンマ君たちシモンファミリーも、私と綱吉も。だからどこにいても、聞こえる。 無事に合流した後は、エンマ君と綱吉と、三人で会えなかった間のことを話した。ボンゴレ10代目ファミリーがイタリアに移住してきてからのことを中心に、話は尽きなかった。話が盛り上がる途中、綱吉の顔を盗み見ると彼はすぐに私の視線に気づいて、「どうしたの?」と言いたげに微笑み返してくれた。私は何でもないと首を振り、そっと綱吉の手を握った。 |
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