ブルーデイズ 付き合いだしたんだって、すぐに気づいた。 お互いに向けられる視線は昨日までのそれと違い、相手を愛おしむものだ。きっと綱吉が京子ちゃんに思いを告げたんだろう。 ボンゴレアジトの談話室で笑い合っているみんなは、きっとまだこのことに気づいていない。なごやかな、いつも通りの午後の時間が流れている。 私はみんなに気づかれないように部屋を出た。さすがに、あのままあそこにはいられない。いつかそうなるだろうなって思っていたけれど、平然と気づいていないフリをして何でもないように振る舞うのは無理だと思った。私は地下にあるアジトを抜けて、地上にある庭に出た。ぽつんと一つだけ置いてあるベンチに座り、目を閉じる。 仕方ないとか、好きって言えなかった自分が悪かったんだとか、色んなことが浮かんでくる。綱吉が好きなのに、彼の恋愛相談に乗ったりして、馬鹿じゃないの。 あのときああすれば良かった、あんなこと言わなければよかった。そんなこと今更どうしようもないのに、考えるのを止められなかった。いっそのこと、泣いてしまいたい。でも、こんな場所じゃいつ誰が来るか分からない。泣いているところを見られるのは、嫌だ。 ああほら、もう誰か来てしまった。さくさくと落ち葉を割る音に顔をあげると、茶色のブーツが目に入った。 「ちゃん」 「……京子ちゃん。どうしたの」 「どうしたのって、それは私のセリフだよ。こんなところで何してるの?」 京子ちゃんは私の隣に座ると可愛らしく首を傾げた。せめて京子ちゃんじゃなければ良かったのに。 京子ちゃんは私の思い人が誰か知らない。 「なんでもないよ、ちょっと気分転換」 「そっか。ここ、お日様が当たって気持ちいいもんね」 ニコニコ笑う京子ちゃんは私の目から見ても可愛い。彼女がここに来たのはただ優しいからなのに、それにさえくすぶっている私は嫌な女だ。私が京子ちゃんみたいに柔らかく可愛らしく、優しい女だったら、話は違ったかな。……もしそうだったとしてもきっと変わらなかっただろう。綱吉は人の奥底にあるものを感じ取る、そういう人だ。 「京子ちゃん、」 はっきり京子ちゃんの口から聞いて諦めよう。そう決心して、私は息を吸った。今すぐ二人を祝福してあげるのは無理だけれど、いつまでもずるずるしたり、友達として二人とやっていけなくなったりするのだけは絶対に避けたかった。 「京子ちゃん、綱吉と付き合ってるでしょ?」 京子ちゃんは驚いたようで、大きな瞳を丸くさせた。それから恥ずかしそうに、でも嬉しそうにはにかんで、彼女はうんと頷いた。ああ、やっぱり本当なんだと妙に納得した。 「昨日ね、告白されて……ビックリしたけど、嬉しかった」 「……そっか、」 「今までツナ君ばっかり気になってた理由が自分でも分からなかったんだけど、告白されて、『あ、私ツナ君が好きだったんだ』って、気づいたの」 そう話す京子ちゃんは幸せそうで、どこか遠く感じる。私が欲しかったものを、京子ちゃんが持ってる。自分から話を振ったのに、胸に浮かんでくるのは寂しさと、ふがいなさと、嫉妬だけだ。 せめて好きって言ってふられればよかったな。長い片思いの終わり、結果は見えていたのだから、せめてもう少し違う形で迎えられるようにすればよかった。そうできなかったのは、ほんのちょっともなくても望みを捨てたくなかったから、だけど。 「誰かと付き合うなんて初めてだからちょっと不安だけど、ツナ君とならきっと大丈夫だと思う」 「うん。そう、だね」 笑ってよかったねって言えない代わりに絞り出した言葉は擦れていたかもしれない。京子ちゃんの方を見れず、青空に一つぽつんと浮かんだ雲を見つめたままの私を、彼女はどう思っただろう。とても隠しきれていないだろうけれど、私の気持ちにはどうか気づかないままでいて欲しい。 「ねぇ、中に戻ろう?」 すっと立ち上がった京子ちゃんは、私を待たずに、でもゆっくりと来た道を歩いていく。少し離れて私も落ち葉を踏みしめた。 いつかこの気持ちが薄れて、二人の幸せを願える日が来るのだろうか。 それは分からない。けれど昨日までの日々はもう、戻らない。 |
110116