、あなた無理しすぎよ」
後ろでビアンキがため息をついた。ビアンキが心配してくれてるのはよく分かるけれど、今はこうして敵を排除する他にどうしていいか分からない。だって、じっとしていると『綱吉の傍を離れなければこんなことにはならなかったんじゃないか』と、そればかりを考えてしまう。そんなことを考えるのは嫌で、私は並盛町に集まってくる敵を散らして回っていた。表面上は敵の頭数を減らすためとなっているそれは、本当はただ行き場のない気持ちをぶつけてるだけだった。
「とにかく、今日はもう外に出るのは止めなさい。疲れてるんだから」
「……うん、わかった」
実際ビアンキが指摘する通り、体力も気力も消耗していた。このただでさえ慌ただしいときに、倒れたりするわけにはいかない。みんなの足を引っ張るのはごめんだし、何より戦力外になりたくなくてビアンキの忠告に従うことにした。
、」
「何?」
ビアンキは一瞬続きを躊躇して、それから口を開いた。
「どうせすぐに分かることだから言っておくけど……10年前からツナが来てるわ」
「……そう」
10年前の綱吉を私は知らない。綱吉と会ったのは彼が高校を卒業した春だったから、中学のときのことは話に聞いたことがあるだけだ。
だから10年前の綱吉も、私を知らない。
10年前の綱吉にはできれば会いたくない――会っても寂しくなるだけだから。




どうして望まないことばかり起こるんだろう。
ビアンキと分かれて部屋に戻る途中、彼に会ってしまった。足早にその場を離れようとしたけれど、呼び止められてしまってできなかった。私の知っている綱吉よりも高いけれど確かに彼の声だったし、面影もあって、私は足を止めてしまった。
「あの、あなたは……」
「私は。あなたは私に会ったことないはずよ。あなたが過去で私に会うのはもう少し先だから」
「そう…なんですか」
一言しか話してないけれどこれ以上話したら泣いてしまいそうで、私は綱吉に背を向けた。またねと言って走ろうとしたら、いきなり腕を捕まれた。
「何?」
聞くと綱吉はあわてて手を離した。
「ごっ、ごめんなさい!あの、その、一言だけ言いたいことがあって。あんまり無理しない方がいいですよ。さん、疲れてるみたいだから」
「ありがとう……心配しないで、大丈夫だから」
「でも、大丈夫って顔じゃないよ」
自分でも、たぶん今の私は酷い顔をしているんだろうなと思う。
だって目の前にいるのは私を知らないだけで確かに綱吉本人で、それは私を戸惑わせる。嬉しさと寂しさと後悔が同時に押し寄せてきて、どうしていいか分からなってしまった。
「ごめんなさい、私、あなたを守れなかった」
まだ中学生の綱吉に謝ることじゃなかったかもしれない。堪えられなくなった涙が廊下を濡らした。それに気づいた綱吉の困っている顔が滲んで見えた。泣いても彼を困らせるだけなのに、上手く止められない。
早く泣き止んで、泣いたりしてごめんね、って言わなきゃ……。
「あ、あの!未来に来たらこんなことになってて初めは驚いたけど、この時代に俺がいないのはさんの所為じゃないと思うし、それに俺達がこの時代に呼ばれたのは白蘭を倒すためだと思うから…白蘭を倒せばきっと未来も変わる――だから、その…な、泣かないで」
返事ができなくて、私はこくりと頷いた。
「俺達も頑張るよ。こんな未来、みんな望んでないんだから。みんなで変えるんだ、未来を」
いつもそうだったように、綱吉の言葉は不思議と信じてみようという気になる。綱吉が言うと出来るような気がする。
「ありがとう。私も頑張るよ」
この時代の綱吉やみんなの為だけじゃなくて、今目の前にいる彼の為にも出来る限り優しい未来を取り戻したい。涙で濡れた目元を拭うと、自然と顔が綻んだ。
「一緒に取り戻そう、未来を」



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101110