チョコレートは、用意しなかった。
幼稚園の頃からずっと渡し続けていたけど、それも去年まででおしまい。今年はあげないことにした。
だって、私の幼馴染は私の親友が好きで、私の親友は私の幼馴染が好きだって言うんだから、もう私の出る幕じゃない。
京子には(そして花にも)散々、「チョコレートあげなよ」って言われたけど、とてもそんな気にはなれなかった。京子は私の好きな人が綱吉だって知らない。だからそんな風に応援してくれていたけど、フラれるって分かっててチョコレートを渡す、そんな勇気は私にはない。去年までみたいに、冗談めかして渡せばいいのかもしれないけど、それも寂しくて、できなかった。
もう考えるのは止めよう。
そう思って布団を頭までかぶって眠りにつこうとするけれど、まだ21時だ。眠れるはずない。
起きていると色んなことを考えてしまう。
京子はチョコあげたのかなとか、上手くいったのかなとか。私の意気地なし、とか。嫌だな。


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結局、はチョコをあげなかったみたいだった。
あげた方が良いよって何度も言ったのは、のためでもあったけど、わたしのためでもあった。
がツナくんのことが好きなのを、わたしは本当は知っている。は一度も言ったことはなかったけど、見ていれば分かる。
わたしもツナくんが好き。でも、だからってが遠慮することはないと思うし、遠慮して欲しくない。お互い頑張れれば良いなって思ってた。
けど、はそうは思ってなかった。ちゃんと、にお互い頑張ろうねって言えばよかった。
……バレンタインにはもう遅いけど、明日にでもと話そう。遅くなったけど、間に合わなくはない。
ツナくんは私のチョコを受け取ってくれたけど、それだけだった。いつも通り、何も変わらない。少し、ううん、結構残念だけど、仕方がない。
だって、ツナくんが好きなのは、私じゃない。


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がっかりしている自分に気づいて、驚いた。
がっかりというか、ショックなのかもしれない。
バレンタインにそんなに期待してたわけじゃないけど、からチョコを貰えなかったということが、心を重くしていた。
京子ちゃんからチョコを貰えたけど、ずっと何かが欠けているような気がしていた。好きな子からチョコが貰えたら、もっと嬉しい気持ちなんじゃないのか?俺が好きなのって京子ちゃんじゃなかったのか?
分からなくなって、京子ちゃんに何も言えなかった。ただありがとうって言って、それだけ。
京子ちゃんと別れた後も、気になるのはのことだった。がチョコをくれなくなったのは、誰か好きなヤツができたからなんだろうか。
が誰かにチョコを手渡すのを想像して、すぐにその考えを振り払った。嫌だ。
自分の想像にムカムカして、ようやく気がついた。俺、が好きなんだ。チョコをもらうのが当たり前になってて、近くにいるのが当たり前になってて、気がつかないなんてバカだ。
誰か好きなヤツがいそうな感じじゃなかったけど、は誰かに告白したんだろうか。考えたって分かりはしないけれど、そればかり考えてしまう。
は今、どうしているのだろう。



チョコレートトライアングル
090214