冬休みの大事な課題 冬休み、正月を実家で過ごすため、廉造は京都に帰ってきた。 竜士、子猫丸はもちろん一緒で、そこに今回はが加わった。幼馴染みのの実家はもう何年も前から東京だったが、彼女の両親は年末年始も仕事で海外らしい。 正月を一人で過ごすのは寂しいだろうと、と廉造、双方の両親がにも京都に行くように進めたのだ。 ――幼馴染みやからって同じとこに寝泊まりさせてええんかい。そりゃがおるんは嬉しいけど、色々我慢せなあきまへんなぁ……。 両親たちは、と自分がただの幼馴染みではないことを知らない。半ば親戚のように思っているところがあるから、何も問題なしとしたようだ。 問題大アリやと、廉造は一人胸中で毒づいた。 「ほんじゃ、また夕飯でな」 旅館に帰ってくるなり、子猫丸は墓前に手を合わせに行った。竜士も竜士で、出張所へ行ってしまった。 「ほな、とりあえず荷物置き行こか」 さりげなく、廉造はの手から荷物を取った。 「自分で持てるよ」 「ええからええから、甘えとき」 廉造がそう言って笑顔を見せれば、は黙ってこくんと頷く。がこうして笑顔で押されるのに弱いと、廉造はよく分かっていた。 ちょっとしたことにも照れたような素振りをするのが可愛いくて、つい甘やかしてしまう。 今日は子供達が帰ってくるからと、竜士の実家の旅館に志摩家と子猫丸も集まる予定になっていた。 二人は今日の宴会会場の隣の部屋に向かう。廉造に案内されなくとも、小さいときによく出入りしていたからにもどの部屋かは分かる。 「なんだか不思議な感じ。自分ちに帰ってきたみたい」 「まぁ似たようなもんやない?やって、小さいときはここによう居ったんやから」 「当たり前だけど、全然変わってないね……あっ、」 「ちょお、どないしたん?」 何かを見つけたらしく、は突然小走りになった。廉造が呼ぶと、は振り向いた。が、止まらない。 「金兄!」 廊下の角を曲がったところにいたのは、寺で唯一金髪の、廉造の4番目の兄だった。 聞きなれない声に呼ばれ、金造は足を止めた。勢いのまま胸に飛び込んできたを、金造はしっかり受け止めた。 「おっと!……おぉっ、やん!久しぶりやなぁ!」 「よかった、覚えてた!忘れられてるかと思っちゃった」 「んコト忘れるわけないやろ!ひでえなぁ〜」 金造はの髪をわしゃわしゃ撫でた。髪が乱れてもは気にせず、金造にじゃれついて再会を喜び笑っている。 ――アカンて、ここは我慢や。ちっさい時ようやっとったやないか。 無邪気に笑うは可愛い。しかし相手が金造というのは面白くなかった。 心にちくちくしたものが芽生えるのが自分でも解ったが、廉造は微笑ましい光景を見ているつもりで笑顔を作って見せた。実際、微笑ましい光景のはずである。 そりゃあ約10年振りの再会なのだから、嬉しくないはずがないのだ。 廉造が一人でうんうん納得していると、またが兄の名を呼ぶ声が聞こえてきた。 「あっ、柔兄だ!」 「お?もしかしてか?大きくなったなあ!」 が駆け寄ると、柔造は幼子にやるように、を抱き上げる。廉造の繕った平常心に、ぴしりとヒビが入った。 「きゃっ、柔兄、私もう幼稚園児じゃないよ!」 「いつもしてやってたなぁ思たら、ついなぁ。好きやったろ?なんや、大して変わっとらんな」 「えぇー柔兄ひどい!そんなことないよね、ねっ?」 柔造に抱き上げられたまま、は廉造に同意を求めた。それで漸く、二人の兄は末の弟の存在を認めたらしい。 「「廉造、帰っとったんか」」 自分がいないでどうしてだけ来たと思うのか。込み上げる悲しみをぐっと押し込み、廉造は言った。 「ついさっき帰ってきたとこや。お父から聞いとるやろ、も年末年始ウチで過ごすって」 「おん。妹が帰ってきたみたいで嬉しいわ。なぁ」 「せやな」 顔を見合わせ、柔造と金造は頷きあっている。 「しばらくお世話になります」 「なんや他人行儀やな。自分ちやと思ってええんやで」 柔造に抱き上げられたままそんなやり取りをする3人を、廉造はもう我慢できない。 「柔兄はいつまで抱っこしとるんや!下ろせ!ちゅーかどこ触っとるんや!」 「おっと、すまんかったな、」 「わ、私こそ……」 ――帰ってきて早々こんなことでは、正月を心安らかに過ごせそうにない。 が下ろされると、廉造はと兄達の間に割って入った。 「廉造?」 珍しく怒っている廉造を見て、が慌てる。がごめんねと言おうとしたとき、腕をぐっと引かれ廉造に抱き締められる格好になった。 「ちょ、れんぞ……」 「は俺んや!せやから柔兄たちは触ったらアカン!」 廉造の宣言に、二人の兄は目を丸くする。の顔は真っ赤だ。 「え?おまえら付きおうとるん?」 金造の問いに答えず、廉造はの手を取ってずんずん歩き出した。廉造の頬が僅かに赤く染まっているのを金造は見逃さず、まじか、と呟いた。 荷物を置いて部屋の襖をしめると、廉造はに向き合った。 「お願いやから、あんま柔兄たちといちゃつかんといてや」 「ごめんね……そんなつもりじゃなかったんだけど」 切実そうに手を併せて頼んでくる廉造に、はしゅんとした。 「、抱き締めさせてな」 「ちょっ、廉造。恥ずかしいよ……」 有無を言わさず、廉造は両腕をの背に回した。身を捩ろうとするに、廉造は眉を下げた。 「なんや、金兄や柔兄はよくって、俺はダメなん?」 「そうじゃないよ!でもなんか、廉造だと緊張するっていうか……ドキドキしちゃうんだもん」 表情を見られまいとしては廉造の肩に顔を埋めた。 なんやこの可愛さ。 ぎゅっと腕に力を込めると、も答えるように廉造の服を握った。 兄達とじゃれていたときには見せない態度に、さっきまでの光景もまぁいいかと思えてくる。 兄達に妬いていたのが嘘のようだった。こんな様子を見せてくれるのなら、兄達とのやり取りもほんの少しなら我慢できる気までしてきた。ほんの少し、だが。 しかし問題はもう1つある。 ――まだ手ぇ出したらあきまへんで、俺! もう1つの問題に打ち勝つべく、廉造は自分の頬をつねった。 |
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