波間に揺れる 頭は、どうして私を拾ってくれたんだろう。 一緒に連れていってくれと言ったのは私だったけれど、キッド海賊団に見合うほどの力は私にはない。それでも頭はダメとは言わず、文字通り私を拾い上げると、思いの外そっと甲板に下ろしてくれた。 そのときから頭の船で波に揺られる生活が始まった。何度か敵船や海軍との戦いがあったけれど、穏やかなものだ。当然、頭たちはそんな奴らにやられるような集団じゃなく、返り討ちにしてやるのが当たり前だった。 さて、そんな凄いと一言で言ってしまっていいのか分からない程の海賊団の頭が、私を拾ってくれたのはどうしてだろう。 「気まぐれ、かなぁ」 大いにありえると思う。私は甲板の先頭で柵に捕まりながら海を眺め、一人で理由を考えていた。いくら考えても浮かぶのは「気まぐれ」の一つだけで、もしそうならいずれどこかの島で捨てられてしまうんだろうかと、根拠のない不安に襲われる。そのたび私は首をブンブン横に振った。 頭はそんなこと、しない。ああ見えて意外と仲間思いの人だって、見ていれば分かる。一度自分の船に乗せた以上、最期まで見捨てはしないだろう。 「……寒い」 どうやら次の島は冬島らしく、空気が冷えてきた。灰色に淀む空からは、今にも白い雪が舞いそうだ。さっきまでは暖かかったから上着を着ていなくて、寒さで身体が震えた。 「何やってんだ、」 「!」 背後から私を呼んだのは他でもない頭で、びっくりして振り返った。頭はそんな薄着で風邪引いてもしらねぇからな、と呆れている。自分は半裸にコートで寒くないのだろうか。 「頭、」 ――頭はどうして、私を船に乗せてくれたの? 本人に聞いてみようと息を吸い込んだものの、声にできなかった。理由が知りたいのに聞くのが怖いなんて、そんな。 「どうした」 「……やっぱり何でもない」 気まぐれだと言われたら寂しくなってしまうから、曖昧に笑ってはぐらかした。想像しただけでも苦しくなる。頭は特に気にしていないみたいで追求してこなかった。 「あんましょぼくれてんじゃねぇぞ」 頭の声と一緒に私の上にバサリとコートが落とされた。暖かい。 「貸しといてやるよ」 「あ、ありがとう」 頭はニッと口元だけで笑い、私のあたまをぐしゃぐしゃと撫でると船内へと戻っていった。私は頭のコートに顔まで埋めて、その場にずるずると座り込んだ。空から白い綿のような雪が降ってきた。 ……本当は、頭が私を拾ってくれた理由をもう一つ思いついている。それは殆どが私の願望で、半ば妄想のようなものだった。 でも頭。こんなことされたら、そうなんじゃないかと少し期待してしまう。 だって私は、頭が好きだから。 |
110418