君に捧ぐ



食堂の壁や天井は華やかに彩られ、テーブルには御馳走がズラリと並べられてゆく。着々と完成へと近づくその様子を、私は一人呆然と眺めていた。
――絶対、不機嫌になる。
確信があった。神田は誕生日のパーティーに喜ぶどころか、眉間のしわを二倍に増やすだろう。誰でもそのことを知っているが、誰もがお祭ごとが好きなわけで、神田本人の気持ちはさておきパーティーは開かれるのだ。
一応、私は少し反対したのだけれど。
「うーん…出席はしてくれると思うけど」
リナリーやコムイさんに上手いこと言いくるめられて、舌打ちしながら席に着く様が目に浮かぶ。
そういえば少し前にリナリーが食堂から出て行くのを見かけたから、そろそろ来るはずだ。科学班の面子もちょうど帰宅しているエクソシスト達も大分集まっている。
いつもより豪華な天ぷら蕎麦もしっかりとテーブルに乗っている。
「っと、来た来た」
真ん中の特等席に押し込まれた神田の右隣の席に私も座った。向かいにリナリーがきて、その横には当然コムイさんが着く。神田の左にはラビが座った。
「ユウー、そんなムッとした顔すんなって。折角、皆が準備してくれたんさ、楽しめよ」
「うるせぇその名を呼ぶな!」
「そうだよ、そんな眉間にしわ寄せてないで――ほら、始まるよ!」
コムイさんがグラス片手に目配せして、私たちもグラスを手に持つ。
「それじゃあ、神田クンの誕生日を祝って。乾杯!」
ワァっと声が上がってグラスのぶつかり合う涼しげな音が響く。おめでとう、おめでとうと、皆から寄せられて、神田はちょっと照れてるみたいだ。しかめっ面が微妙に緩んでる。
「神田クンも飲みなよ〜、今日のはちょっと良いヤツなんだよ!」
「あっコムイさん!神田にお酒勧めないでくださいよ!」
「神田って案外弱いのよね」
――騒いで、飲んで、歌って、仕舞いには踊りだしちゃう人もいたりして、パーティーはあっという間に閉会を迎えた。
やっぱり神田は何だかんだいいながら最後までいた。ちょっとだけ飲んだお酒に酔ったのか、なんとなく顔が赤い。
、行くぞ」
「あ、うん!」
皆でやるパーティーはもう終わっちゃったけど、私にとってはここからがメイン。去年もこのパターンだったっけ。
パーティーの後は部屋でゆっくり過ごす。
神田の部屋で他愛もない話をする。この部屋はソファがないから二人でベッドに腰掛けてだ。
「今年も凄かったね。去年も凄かったけど」
「全く…俺はこういう事は好きじゃねぇんだってのに」
「そうだね。でも、そんなに嫌そうじゃなかった、むしろ楽しそうだったよ」
私がそう言えば神田は不本意そうに目をそらして、その様子がなんだか愛しく見える。思わず笑ったら軽くこずかれて、可笑しくなってまた笑ってしまった。
「一年間、色々あったね」
「ああ」
仲間が居なくなったり、新しい仲間が増えたりもした。私たちも喧嘩したり、笑い合ったりした。
「また一年、色々あるね。楽しいことが多ければいいな」
それと、できるだけ一緒に居たいね。
そう言ったら神田はバーカって言ったけど、それは「そうだな」って言ってくれたのと同じだと思う。
ああそう、それとね。
「今年はまだプレゼント渡してないね」
「別に、いらねぇよ」
「去年のお酒は失敗だった……今年はね、物じゃないよ」
「何だ?」
不思議そうな顔をする神田を覗き込むようにして、それを渡す。
「神田とまた一年一緒にいられますようにって、お祈り」
「……おまえ似たようなこと一年中言ってるだろ」
「……今日のは特別!だから――」
キスを一つおまけにつけるよ!
唇を重ねて、私は祈りが通じることをそっと願った。