愛すること 「は、寂しくないんですか?」 「え、何が?」 アレンの質問は突然で、一体何のことを聞かれているのか分からなかった。アレンは少し困ったように笑って見せた。 「カンダのことですよ。あの人、のことほったらかしにしてるじゃないですか」 まぁ、確かに言われてみればそうかもしれない。 それでもたまに掛けてくれる言葉は不器用だけど優しさを感じられるし、一瞬だけど頭を撫でてくれることもある。それを思うと、自然と顔が綻びた。 「寂しくないわ」 「……そうですか」 腑に落ちないとでも言いたいような感じだった。 「でも、」 テーブルの、市松模様のクッキーに手を伸ばそうとした時だった。 「でも、はときどき悲しそうな、切なそうな顔をしています。それはカンダの所為じゃないんですか?」 手が止まった。 そんな顔をしていたつもりはなかったのに。笑っているつもりだった。 「違うわ。だって愛は見返りを求めないものよ」 嘘じゃない。本当にそう思うのも事実だ。けれど、知っている。本当はそれだけじゃないことを。 「そうかもしれません。だけど僕は…あなたのそんな顔、見たくありません」 「ごめんね。でも私、やっぱり神田のこと、好きだから」 知っている。愛すれば、相手にもそれを返して欲しくなるものだって。同じだけ、もしくはそれ以上に、言葉で、態度で示して欲しくなる。 神田は淡白だから、やっぱり、寂しさを感じるのも事実なのよ。 嘘じゃない。 「……、」 返事はしないで、俯いたまま首を横に振った。涙がこぼれたのに気づかれてしまっただろうか。 肩に触れてこようとしたアレンの手を少し乱暴に振り払ってソファから立ち上がる。震えそうな声を何とか抑えて、言った。 「……今日、神田が帰ってくるの。私、部屋に戻るわ」 アレンは何も言わなかった。 談話室を出ようとしたところで一度立ち止まった。振り返りはしない。 「ごめんね」 また涙がこぼれてしまわないうちに、部屋に急ぐ。 神田は夕方には帰ってくるらしい。 どうか笑って迎えられますように。 |