おかえりなさい



必要な物しかない、簡素な部屋のベッドの上。そこに彼女はいた。
任務から帰ればいつも一番にすっ飛んでくるが来ないと思ったら、こんなところにいた。俺が帰ってきたことにも気づかないで、静かに寝息をたてている。ベッドの真ん中で、身体を丸めている……だまってりゃ可愛いじぇねぇか……
……って、なんでコイツ俺の部屋にいるんだ?
寝顔に気をとられて気づくのが遅れたが、なんでが俺の部屋にいるんだ?鍵はどうした、鍵は!渡してねぇぞ。
「おい、
呼んでみる。
「………」
反応なし。
ったく、仕方ねぇヤツだな。
「おい、起きろ!」
今度はベッドの淵に腰掛けて起こしてみる。こんなところで無防備に寝やがって、どうなってもいいのかよ?
「……ん…」
軽く揺さぶってやるとは漸く目を覚ました。焦点の定まってない寝ぼけ眼をぱちぱちさせると、状況が掴めたのか目を見開いた。
「あ、あれ!?神田?なんで……あ!夜這い!?」
「馬鹿かお前は!ここは俺の部屋だ。今お前が寝てるのは俺のベッドだ!」
前言撤回、やっぱり掴めていなかったらしい。それにしてもどういう寝ぼけ方すんだよ。
「なーんだ、違うの」
「おい襲われたいのか!?」
「いや襲われたくないです冗談ですごめんなさいキャー!」
「…………」
なんなんだコイツ。もしかしてわざとか?っつーかそんなに拒否すんなら冗談言うなっての…お前と俺の関係はなんだと思ってんだよ。
…ところで。
、お前どうして俺の部屋にいたんだ?鍵はどうした」
今はまずそれを聞くことが先だ。はベッドの上に座りなおして、言う。
「鍵?鍵はコムイさんに借りたの。神田の部屋の鍵貸してくださいって言ったら二つ返事で貸してくれたよ」
「ったくコムイの野郎……」
そのときの様子が容易に想像できて、舌を鳴らした。ニヤニヤしながらに鍵を渡したに違いない。ぜってぇ変な想像してやがる。
「神田、本当は昨日帰ってくる予定だったでしょ?下で待ってたんだけど帰ってこないから、神田の部屋で待ってようと思ったの。あそこ寒いし…。神田を驚かせようと思ってたのに、いつのまにか寝ちゃった」
…そういうことか。
の言う通り、本当は昨日戻ってくるはずだった。それが列車が故障して一日遅れた。どうしようもねぇからそのまま今日まで列車の中で過ごして戻ってきたんだ。
「だから下にいなかったのか」
「そうだよ。……もしかして心配した?」
が俺の顔を覗き込んでくる。そんなに顔を近づけるな馬鹿!
「っ…してねぇよ!」
「えー…したんでしょ?」
だから顔を近づけるなっての!今日は下にこなかったから心配した、なんて女々しいこと言えるわけねぇだろうが!瞳を輝かせてじりじりと迫ってくるを俺は思わず押し返した。
「きゃ…っ」
が後ろへ倒れこむ。
…その上に覆いかぶさる状態になった俺。
くそっ、こなったらもう自棄だ。俺の所為じゃねぇ。
「え、えーと…神田……?」
どこうとしない俺には疑問符を浮かべる。そんなことには構わず、との間を詰めていく。
「ああそうだよ、心配したんだ!」
「あ、あ、それは嬉しい―――んだけどなんで迫ってくるのよ!」
いまさら慌てたって遅いぜ。
「よっぽど襲われたいらしいからな、お前」
「ちがうー!あ!神田ストップ!私、大事なこと忘れてた!」
「あ?」
そう言われて思わず止まった。大事なことって何だ?
「私まだ言ってない。このために待ってたのに。……おかえりなさい、神田」
…そういえばまだ聞いてなかったっけな。
返す言葉を、の耳元で囁いてやる。
「あぁ。……ただいま」
嬉しそうに笑顔をみせるを、俺はそのまま抱きしめた。

05/11/15