Last 「………神田、」 ノックもなしに開けられたドアから顔を出したのは、医務室で寝ているはずのだった。いつもの気丈な様子はなく、名前を呼んだ声は頼りなく、細い。 「、ちゃんと寝てろ」 「やだ……」 パタンとドアを閉じ、は神田の元へ小走りに近付いた。それから、ぎゅっと神田の団服を掴んだ。その腕にはまだ新しい傷跡が見える。腕だけではない、足にも、体中に傷がある。 つい先の任務で、は幾つも怪我を負った。怪我だけ見ればたいしたことないが、怪我から体内に入り込んだ毒が悪かった。解毒剤がないのだ。科学班が総力をあげて研究を進めてはいるが、まだ見つからない。 「私、解かるんだ……もう、間に合わない」 「馬鹿なこと言ってんじゃねぇ。医務室に戻れ」 「だから、神田、お願い」 じっと自分を見つめる瞳に神田は言葉を止めた。の言うことは多分、本当なのだ。 「最後のお願いなんて馬鹿なこと言うんじゃねぇぞ。おまえはまだ死なないんだ」 まだ死なないと。口の中で繰り返し、言う。頭の中では死の訪れを知らせる警報が響いていても、認めるわけにはいかない。認めてしまえば僅かに残っている希さえも消えてしまいそうな気がした。 「神田、一緒にいて欲しいの。医務室は真っ白で、怖い」 「分かったから大人しく寝てろ」 「う、ん…」 を抱き上げると神田は自分のベッドに横にさせた。椅子をベッドの傍に移動させ、座った。 「神田の匂いがする……」 「そうか」 神田の腕が伸ばされて、の髪をそっと撫でた。はくすぐったそうに、気持ちよさそうに瞳を細めて神田を見つめた。潤んだ瞳は死への恐怖を訴えているかのように見えた。 「神田」 「どうした?」 「私達が初めて二人で任務に行ったときのこと、覚えてる?」 「あぁ」 「神田が助けてくれなかったら、私、あの時に死んでた。死ぬのはあまり怖くなかったの。死んじゃえば楽になれるって。もう闘わなくていいんだって」 「……」 「でも、でも今はあの時とは違って…死ぬのは、怖い……」 伸ばされたの手を握ってやると、小さく震えているのが伝わってきた。毒の所為なのか、いつも温かかった手が今はひんやりと冷たい。 「もっと一緒にいたいよ、神田と一緒にいたいのに……っん、」 後に続くはずだった言葉は突然の口付けでのまれてしまった。数秒してゆっくりと温もりが離れてゆく。 「傍にいてやるよ。だから、泣くんじゃねぇ」 「……うん。ね、神田」 「あ?」 握った手に一瞬、力が込められる。 「神田、大好き」 「…あぁ」 ただそれだけの、そっけない返事に微笑むとは眠るように瞳を閉じた。 |
05/11/12