見えない天秤



神田が司令室から出ると目の前にがいた。冷たい壁に寄りかかり項垂れている。
「おい、どうした?」
「……なんでもない」
目の動きだけで神田の姿を確認するとは壁から離れ、行こう、と神田を促がした。向かう先は神田の部屋。神田は明らかに様子がおかしいのニ、三歩後ろを彼女の歩調に合わせて歩いた。部屋まで着くと、鍵を開けてやる。黙ったまま、は部屋の隅にあるベッドに向かい、その上に座った。
「…また、任務に行くの?」
「あぁ」
「やだ、行かないで」
ずっと俯いていた顔を上げて言った声は驚くほど澄んで聞こえた。互いの目があい、神田はの傍に寄った。
、どうした」
「……私は、ただ」
ぽつり、ぽつりとは話し始めた。瞳はまっすぐ神田を見つめている。
「ただ、神田に傍にいて欲しいだけ……。神田と、ずっと、一緒にいたいのに」
それはごく当たり前の願い。年頃の恋人同士にとっては自然の願いのはずなのに、二人には遠い夢のようなもの。
「神田の、命は、いつまでもつの?あとどれくらい、生きていられるの?」
「………」
神田は答えない。死なないとは言えなかった。叶うことのない、無責任な約束はしたくなかった。したところでそれは偽りでしかない。
は続ける。
「世界なんか滅んだっていい。だけど、神田がいなくなるのは耐えられないよ……」
ぐい、との腕をひき、きつく抱きしめる。の身体に力は入ってなく、腕を解けばその場に崩れてしまいそうなほどだった。
「……、もう言うな。俺たちは"エクソシスト"なんだ」
抱きしめる腕にさらに力がこめられた。それに応えるようにも腕を神田の背へまわした。
「それでも、私の大切なものは、 」
そっと閉じた瞳から一筋、涙がこぼれた。





誰だって、大切なものは同じ筈なのに

05/11/9