Sweet Chocolate! 二月十四日水曜日、バレンタインデー。二月頭から始まったざわめきが頂点に達し、あちこちでチョコが飛び交っている。クラス中にばら撒いてみたり、仲のいい友達にあげてみたり、好きな人に告白してみたり。男子は男子でいくつ貰えたとか貰えなかったとか、そんな話をしているのが聞こえてきた。 応接室にいる今も、窓から見える中庭では告白タイムが行われている。 「……雲雀遅いなぁ」 他人の告白を覗き見なんて良くない。そっちから視線を外して、独り呟いた。 雲雀はバレンタインなんて浮ついた感じの行事には興味なさそうだしチョコもあんまり欲しくなさそうだなと思っていたのに、先週末の帰り道、『十四日の放課後、応接室来てよ』なんて言うから驚いたというか、少し意外だった。もし雲雀がそう言っていなかったらチョコなんて用意しなかった。雲雀本人だってそう思ったから言ったんだろう。応接室来てよ、なんて言うのが雲雀らしい。それが彼なりの照れ隠しだと思うとなんだか可愛く思えて頬が緩んだ。 そんなことを思い出していたらガラ、という音がした。 「遅くなってごめん、」 「ううん。……それより、それって…」 応接室に入ってきた雲雀の手には紙袋、そしてその中には可愛いラッピングがされた、チョコと思われるものが入っている。年に一度の特別な日、というのに背中を押されてこのおっかない風紀委員長にチョコを送る女の子は案外多いみたいだ。女の子の方はともかく、雲雀が大人しく受け取るとは思えないんだけどな。 「これ?下駄箱やら机の中やらに入れられてたんだよ。ここの机の上にも置かれてた。放っておいても邪魔なだけだし、後で風紀委員のヤツらにでもくれてやるよ」 「やっぱりそうなるんだ…。受け取るくらい良いじゃない」 せっかく贈ったチョコの行く末が別の人っていうのは、女の子としては悲しい。私がそう言えば雲雀はやっぱり煩わしそうな顔をした。 「知らないヤツの作ったものなんて食べたくないね。それに、」 そこでぷつりと途切れた。 「それに?」 「僕ならが他の男からものを貰うなんて許さないからね」 「…………」 雲雀がこんなこと言うなんてなぁ。思いのほか愛されてるって感じちゃったりする。凄く嬉しい。 ……独占欲丸出しなセリフでも違和感なく感じるのはやっぱり雲雀だからなんだろう。 「それより、」 ずい、と手が伸びてきて、雲雀は表情を変えずに言った。 「チョコちょうだいよ」 その手に紙袋を渡せば雲雀は満足そうに唇の端を持ち上げた。 |