曇り空が良く似合う



秋特有の高い空には雲一つなく、清々しくどこまでも晴れ渡っている。こんな日は外に出るに限るから、すっかり雲雀の私室と化した応接室で私は彼に提案してみた。
「雲雀!お弁当、外で食べようよ」
「嫌だよそんなの」
「言われると思ったけど即答されると悲しいです」
「ふーん。やっぱりは馬鹿だね」
口元だけを歪めて笑う雲雀は楽しそうに見えて、私は少しむっとする。雲雀には私の考えなどお見通しで、次に何を口にするかなんてバレバレだ。そう知っていてもついつい言い返してしまう。こんなの、雲雀の思う壺なのに!
「だって、こんなにいい天気なんだよ。快晴だよ!屋上行こうよ!」
応接室だろうが何だろうが入りたい放題の雲雀ならではの場所を提案する。裏庭のベンチには到底付き合ってくれそうにないし。
「嫌だよ。風でゴミ飛んでくる」
「…………」
呆れと面倒が入り混じった溜息を落とし、雲雀は風紀委員のプリントを机の端に寄せた。さっさと弁当出せって合図だ。いつだったか私のお弁当をつまみ、気に入ったのか、それ以来週に何度か雲雀の分も私が作ってくることになった。雲雀は決してストレートに褒めてはくれないけれど、いつも残さず食べてくれるだけで十分だし、嬉しいし、苦ではないのだけれど、それが人にお弁当を作ってもらってる人の態度でしょうか。あんまりじゃないですか。
、お弁当ちょうだいよ」
「たまには…というか一回くらい外でお弁当食べたって良いじゃない」
「しつこいよ」
「でも今日は快晴で風力は多分ゼロなので私は外でお弁当を食べたいです。いっつもお弁当作ってきてるんだし、ささやかなお願いくらい聞いてくれたって良いと思うわけです。どうしても嫌なら理由を。ゴミ飛んでくる以外に」
お弁当は私の手の中にある。このままではお昼にありつけない雲雀はきっと答えてくれる……と信じて雲雀の真正面に構えた。雲雀は窓の外を嫌そうに眺めて二度目の溜息を吐き出すと、頬杖をついたまま言った。
「快晴なんて、似合わない」
「は?」
「だから、快晴なんてには似合わないって言ってるんだよ」
……意味が分からないんですけど。私のどこを取って快晴が似合わないというのかも分からないし、仮に本当に似合わなかったとしてそれが屋上に出たくない理由になる理由も分からない。
私が考え込んでいるとふいに雲雀は立ち上がり、私の横で立ち止まった。顔が近いんですけど。近すぎるよ雲雀!
、君に似合うのは雲一つない青空じゃなくて、曇り空だよ」
耳元で囁かれて不覚にも心臓が高鳴った。別に愛の言葉でもなんでもないけれど、心臓はどきどきいってるし、頬が熱くなるのを感じる。
……私が動揺したほんのちょっとの間に、雲雀は私の腕からお弁当を持っていってしまった。しまった、やられた。雲雀は唇の端を上げて笑う。
「ほら、お弁当食べるよ。ここでね」
「……うん」
屋上はまた今度、曇り空の日に誘おう。それならきっと付き合ってくれる。私は応接室の柔らかいソファに腰を下ろし、お弁当の蓋を開けた。