番外 1. 「、誕生日おめでとぉ!」 「ありがとう!やっと私も16歳だよ」 学食のテーブルの角を陣取って、売店で買ってもらったケーキをはつついた。 いつもの四人組で、ささやかながらの誕生日祝いだ。幸せそうにケーキを食べるの正面で、廉造も上機嫌だった。 学園祭以降、ようやく付き合い始めた二人を暖かく見守ることに決めた竜司は、なにも言わずにその光景を当たり前のものと考えようと努力中だ。 と言うのも、二人を取り巻く空気まで、廉造の髪と同じような色になったからである。 竜司にとっては、色恋に現を抜かしているなんて言語道断であるが、この二人の場合は今の状態の方がずっと良いのだろう。 くにゃりとした笑顔を崩さず、自分を見つめ続ける廉造がさすがに気になってきたのか、は困ったように眉を下げた。 「廉造、にやけすぎ」 「えー、そんなん言われはってもなぁ」 「志摩さん……」 呆れている子猫丸をものともせず、廉造は、だって、と握りこぶしを作ると、熱く話を続けた。 「16歳やで。16っちゅーことは、女の子はもう結婚できるんやで!?」 「せやから、何や」 許嫁のが16歳になったからと言っても、廉造もまだ16歳なのだから、当然結婚できるわけがない。 それでももうすっかりを嫁にもらうと決めた廉造は、16、という数字に妄想を膨らませているらしい。 まだ結婚のことなんて考えられないと言っていた廉造は、すっかりどこかへ消えてしまったようだ。 過去のことはすっかり忘れて、廉造は頭を抱えて唸った。 「あー、なんで男は18歳なんやろ。もう今すぐでもええんやけど!やったらウェディングドレスでも白無垢でも似合うやろなぁ」 「もう、気が早い!」 竜司は、寺なんやから仏前式に決まっとるやろ、とどうでもいい突っ込みを内心でかまし、手元のアイスコーヒーを飲み干した。 嬉し恥ずかしと言った表現がぴったりの顔を見せるに免じて、ここは我慢だ。 「お二人さん、志摩さんが18になったらすぐにでも結婚しそうな感じやねぇ」 「それええな!そうしよ」 「廉造!」 子猫丸の発言に、名案と言わんばかりに廉造は指を鳴らした。がさすがに顔を真っ赤にして慌てると、廉造はしょげて見せる。 叱られた犬みたいなその様子に、つい胸がきゅんとし、は廉造から目を反らした。行き場の無くなった視線が、宙をさ迷う。 「、嫌なん?」 「それは……そんなこと、ない」 押してダメなら引いてみろと言った具合で、を手中に納めると、廉造は再び機嫌良さげに笑みを浮かべる。 付き合う前は、どちらかと言えばが押していたが、最近ではそれが廉造に移ってきていた。 「なら決まりや」 「う、うん」 楽しみやなぁと浮かれながら、廉造はに一口ケーキをねだる。はフォークでケーキを切り分けると、それをおずおずと廉造に差し出す。 そのやり取りを、子猫丸が微笑ましそうに見つめていた。 竜司の、もうそのまま一生やっとれ、とぼやいた声は、二人には届かなかった。 |
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130808