六月の祝福



がたん。列車に揺られながらここ数週間のことを振り返ってみていた。今回は手間取りそうだからってことで、アジア支部から本部に呼び戻されてラビ、それにリナリーとチームを組んでの任務だった。三人でも想像以上に時間がかかって、改めてカレンダーを見て驚いた。六月。ここから本部まで一週間。さらに本部からアジア支部に戻るのにも結構かかる。……早くアジア支部に帰りたい。帰って、それで――
!話聞いてた?」
「え?あ、ごめん……」
目はずっと窓の外を向いていたし、頭の中はアジア支部に戻ることで一杯で、二人の話を全然聞いていなかった。心此処に在らずという私に、リナリーは少し不満げだ。ラビは苦笑いとからかいの混じったような顔で私を見ていた。こういう顔したラビは大体、ろくなことは言わない。
は早くアジア支部に帰りたいんさ。バクちゃんが待ってるもんな」
「ラビ!」
「ああ、そういうことね」
「リナリーまで!」
リナリーはともかく、ラビは面白がってるだけなんだから!からかわれてるとまではいかないけど、これだけでも十分顔から火が出そうな感じがする。
あれからすぐにリナリーには私から全部話した。迷惑と心配をかけた分だけ彼女に対してはちゃんとしたかったから。
……ラビには話してないんだけどな。
「なんでラビまで知ってるの?」
「えぇ?有名な話さ。『バク支部長とがようやくくっついた』ってな」
「なっ!?」
本部に戻ったときにあった違和感はそのせいだったのね。皆に見られてるような気がしてたのは気のせいじゃなかったんだ。さしずめコムイさんあたりが噂を広めたに決まっている。
顔が真っ赤さ!そんなに照れなくてもいいじゃん?みんな祝福してくれてんだからさ」
「そうよ、皆よかったねって言ってたのよ」
「……うん」
それでも皆にちらちら見られるのは落ち着かない気分だけど、二人はこう言ってくれるし、この幸せを確かに感じられる。身体に心地よく沁みこむものを感じながら遠いアジア支部のあの人に心を馳せた。





ジリリリリ!けたたましく電話が鳴る。まったくこの忙しい時に誰だ俺様の邪魔をするのは!
「支部長電話ですよ」
「分かっている!――はいもしもし、アジア支部バクだ」
「あ、バクちゃん?」
「ちゃん付けするな!」
ウォンに急かされて受話器を上げると、やっぱりと言うか何と言うか、本部のコムイからだった。このところ直接話しはしていないし、用件は軽い情報交換てところだろう。
思ったとおり、コムイは本部の近状や未確認の情報などを言ってきた。聞きながらメモ用紙にそれらを書きとめる。向こうの話が終わったら今度はこっちの番だ。確認をとりたい事を完結に伝えておく。
「ところで、今日達が無事に任務から戻ったよ」
急にの名前が出てきてドキリとした。任務中は滅多なことじゃ連絡を取ることはできない。無事と聞いて一拍置いたところで、とりあえずの安堵がきた。
「…そうか」
「もーバクちゃんてば反応薄いなぁ!もっと感動的にさ〜、『可愛いが無事でよかった!』とか言えないの?」
「馬鹿を言うなっ!!」
そんなこと言えるか!しかもコムイ相手に。受話器の向こうから聞こえる笑い声が腹立たしい。受話器片手にニヤニヤするヤツの顔が目に浮かんでイライラしてくる。電話なんてさっさと切ってやる。
「用はもう済んだだろう?切るぞ」
「えー折角電話したのに……なんて言ってる場合でもないか。それじゃ、とお幸せにね〜」
そう言うや否や切りやがった。まったく、余計なお世話だ。それでもまぁ、悪い気はしない。
「さて…もうひと仕事するか」
が帰ってくるまでに一段落つけておきたい。まずはこの山積の書類を片付けるべくペンを持ち直した。