三日後の結論



あれから三日経った。
冷静さをとりもどしても賑わう所へ行く気はしなくて、ちょっと廊下に出たりはしたけどほとんど部屋で過ごした。昨日リナリーが出立の挨拶にドアを叩いてきた、その時しか誰かと話をしてしない。それだって会話らしい会話はしなかった。ちょっと悪いことをした気もするけど、リナリーとちゃんと話すのはちゃんと全部整理できたらにしたかった。






バク支部長のところへ行こうと立ち上がってはまた座り込んで、どうにも一歩を踏み出すのを躊躇っていたけど、こんなんじゃ埒が明かない。今度こそ、と思ったそのときだった。ドアをノックする音がして、私を呼ぶ声がした。
「――、いるか?」
バク支部長その人だった。怖気づきそうになるのをどうにか追いやってドアを開ければ三日ぶりに見る顔がそこにあった。いつになく真面目な顔をした、バク支部長。
「ちゃんと話をしに来たんだ」
「あ、えっと…とりあえず座ってください……」
バク支部長にはソファを勧めて私はベッドに腰掛ける。三日前の、あのときのことを思い出すと恥ずかしくてたまらない。そんなことばかりがぐるぐる頭の中を回ってしまう。何か話そうとしても喉に痞えて上手く言葉が出てこない。私が言葉を発するより早くバク支部長が口を開いた。
「……少し前に、李佳に言われたんだ。おまえ――は僕にとって何なのか、と。答えられなかったんだ。それからリナリーさん達が来て、色々あって、考えて、分かったんだ」
「…………」
バク支部長は表情を変えない。まっすぐ私の目を見ていて、目がそらせない。その先に続く言葉を聞くのが少し怖くて、私はぎゅっと両手を握り締める。
「僕にとっては、特別なんだって」
「……それ、って、」
「…好き、なんだ」
ぎゅっと握った両手から段々と力が抜けていく。涙がたまって視界がゆがむ。堪え切れなくなって一粒、二粒とこぼれる。それ以上こぼれないように目を擦った。
「わ……私、ずっと…バク支部長のこと、好きだったの…」
ソファから立ち上がってバク支部長は私の前に来ると腰を屈めて、私の手を握った。
「それなら泣かないでくれ」
そう言って困ったような顔をして笑う。私は頷いて、握られた手をそっと解いた。その手をそのままバク支部長の背に回した。こんなことして、自分でも少し驚いたりしてる。それ以上にバク支部長は驚いた…というよりは動揺していて、顔が赤い。
「なっ、…!あぁあジンマシンがー…」
「あ。……ごめん」
「いや謝ることはないさ、どちらかといえば僕の所為だからな…。緊張の所為か今さっきまでは出てなかったのに…」
バク支部長には悪いかもしれないけど、私にとってはちょっと嬉しいことかもしれない。……ちゃんと意識してくれてるってことだって思えるから。
背中に回した腕に力を込めればぎゅっと抱きしめ返してくれて。私たちはジンマシンも無視してしばらくそのままでいた。



(「君を想う5つのお題」より『三日後の結論』)