その瞳は誰を追う この事を私が知ったのは、二人がアジア支部についた、まさに今だった。 「リナリー!?……ラビも!」 「。元気そうね」 「……オレはリナリーのオマケか?」 あまりに突然のことに私はその場に立ち尽くした。聞いていない。何でアジア支部にリナリーが?状況の理解できていない私にリナリーはきょとんとして微笑む。 にっこりと微笑むリナリーはやっぱりとても可愛らしい。後ろにいるバク支部長を恐る恐る振り向いて見ると、思ったとおり緩んだ顔をしている。すぐにバク支部長もそれを自覚して、ぶんぶんと頭を振った。きりっとした顔を作って、すっとリナリーの横へ移動する。……良いところ見せようって気だ。 「リナリーさん!長旅でお疲れでしょう。ささ、部屋を用意してあるので一先ずそちらへどうぞ。そっちの…えぇとラビ君だったか?キミも部屋に案内するから、ついてきなさい」 言いながら、バク支部長とリナリーの姿は遠ざかっていく。ラビを気にしてちらちらと後ろを振り返るリナリーだったけど、バク支部長にはそれに気付く余裕もなかったみたいだ。 「……やっぱりオレはオマケ扱いなんさ?」 悲しそうに呟くラビに私は慌てて謝った。 バク支部長を追いかけられるわけもなく、私は一人談話室でため息をついた。 私がアジア支部に戻ってきてからまだ一週間しか経っていない。前に進もうと誓ってから一週間、私はまだ何もしていない。任務の疲れも相当残っていたし、何より切っ掛けが掴めなかった。 ……考えようによってはリナリーが来たのはチャンスかもしれない。 そういえば、何で二人が着たのかまだ聞いていなかった。ただの任務ってことはないだろうし―― 「あー、さん!探しましたよぉ!」 「蝋花!」 科学班の白衣を揺らして入ってきた蝋花に驚く。蝋花に聞きに行こうと思ったところだったから、凄く良いタイミングだ。 「はぁ…あっちこっち探したのに〜…談話室にいるなんて……じゃなくてっ、さん知ってます!?」 「リナリーのこと?リナリーならさっき会ったわよ。ラビにもね」 「えぇっ!もう会っちゃったんですかぁ?」 蝋花はがっくりと大げさに肩を落とすも、すぐに気を取り直して私の向かいに座った。 「なんでもコムイさんのお遣いだそうですよ、任務ついでの。だからすぐ行っちゃうらしいです」 「あ……そうなの」 少しほっとする。 「さん…やっぱり不安ですか?」 私の顔を覗き込むように身を乗りだしてくる。不安があるというか、自分のふがいなさが嫌というか。そう思いながら曖昧に首を縦に振る。 「きっと大丈夫ですよ。思うんですけど…支部長のリナリーさんへの気持ちって、恋じゃなくて憧れですよ。教団のアイドルへの憧れ」 手をぎゅっと握って力説する蝋花に私は目を丸くする。写真をファイルに整理したり、机に飾ってたり……言われてみれば、そんな感じもする。でも、たとえそうだったとしてもバク支部長は混同してるかもしれないし、私の立場が変わるわけでもない。 そんな私の心を見透かすように、蝋花は言った。 「心配ないですよ。支部長だって本当は分かってるはずですから!だから、頑張りましょう?」 「…うん。そうだよね、まずは私が頑張らないと、ね」 リナリーじゃなくて、私の方を見てもらえるように。蝋花もこう言ってくれるし、なるべく前向きに考えよう。 「支部長ー」 「何だ?」 執務室、誰が見てもご機嫌のバクはリナリー達の届けた資料に目を通していた。他の仕事を任されているウォンの代わりに李佳が補佐に当たっていた。 「やっぱりあのリナリーって子のことが好きなんすか?」 「なっ!!」 大げさに音を立ててバクの手から資料の束が抜け落ちる。じんましんを浮かべ固まるバクにはお構いなしに李佳は続けた。 「そのリアクション…図星ですか。でも支部長、それってレンアイ感情なんすか?俺的には違うと思うんですけどね」 「…………。何が言いたい?」 「ズバリ言えば、支部長にとっては何なのか?ってコトです」 「何言ってるんだ!あいつは――」 「あいつは?」 その後の言葉が続かない。 予想違わない展開に李佳はにやつく顔を抑える。顔を真っ赤にしたバクのじんましんは酷くなる一方で、すぐに耐えかねたバクは隣接した仮眠室へ大げさに駆け込んだ。 「なんだ。支部長、ホントは気付いてるんじゃん。自分のことと――のこと」 李佳は満足げに笑いながらウォンを探しに執務室を後にした。 何年も変わらなかった二人の関係がゆっくりと動き出す。 |
(『君を想う5つのお題』より「その瞳は誰を追う」)