04 下心にベッド



何ていうか、寂しい。物足りない。
得に何があったと言うわけじゃないけど、一言で言うなら不満なのだ。今日もいつも通りに起きて、書類の処理をして、本部内を見て周り、あっと言う間に夜になった。大きな争いも最近はなく、平和な毎日を過ごしている。不謹慎かもしれないが、つまりは暇なのだ。あまりにやることがなくて、私は邸内をうろうろ歩き回っていた。獄寺や山本は相変わらず鍛錬に励んでいて、その姿を見て私も訓練しようと思って射撃場を除いてみたけど、生憎と空いている場所はなかった。声を掛ければ場所を譲ってもらえるだろうけどそれは気が引けて、私は射撃場を後にした。
そうだ、綱吉のところに行こう。
そう思い立って邸内の奥まったところにある、ドンの書斎を訪ねた。一応ノックをしてみると、中から綱吉がどうぞ、と応えてくれたので、私は遠慮なく書斎にお邪魔した。

「あぁ、か。どうしたの?」

彼は私を一瞥すると、また手元の書類に目を戻してそう訊いてきた。

「別に、どうかしたってわけじゃないの。……なんとなく、綱吉に会いたかっただけ」

恋人に対してただ『暇だったのよ』というのもそっけなくてつまらない。綱吉もあんまり忙しそうじゃないし、何だかどうしようもなく彼に構って欲しい気がしてしまって、昔のドラマみたいなセリフを言った。

がそんなこと言うなんて珍しいね」

綱吉はくす、と口元に笑みを浮かべながらも、私の方を見てはくれない。私と話ながら左から右へ読み流すような書類なんて、どうせ大したものじゃないのだ。そんなものは後でもいいから、私の方を見てよ。

「でも本当のことだもの。ねぇ綱吉、その仕事って後でもいいんでしょ?」

彼の後ろに回りこんで書類を見てみると、締め切りまでまだまだ余裕があることが知れた。綱吉にとって、今の私は仕事に取り組む主人の足元に纏わり付く猫みたいなものだろう。

「んー…そうなんだけど、もう少しで全部終わるから。少し待っててよ」
「……わかった」

綱吉の言うとおり、机の上に載っている書類はあと4,5枚というところだ。本当はその数枚を待つのももどかしくて、今すぐ抱きつきたいのをぐっと堪えた。わかったとぽつりと告げた私の声は、自分でも不満に満ちているものだったと思う。
私は書斎の奥にある仮眠室のドアを開け、そこに置かれたベッドに腰掛けた。寝るためだけのその部屋には他に何もない。ベッドに腰掛けた私はそこから綱吉の背をじっと見つめる。1枚、また1枚と綱吉が紙をファイルに綴じるのをじっと見つめる。あぁ、あと1枚だ。早くその一枚にサインをしてファイルにしまって、ここに来てキスして欲しい。触れて、髪を撫でて欲しい。そんなことばかり思った。我ながらいったいどうしたというのだろう。酷く自己中心的だけど、こんなのは今夜だけだ。きっともうないし、しない。だから応えて欲しい。
綱吉が立ち上がって私のところへ来るほんの少しの間、私は彼の目をじっと見つめていた。

「お待たせ。そんなもの欲しそうな顔して、本当に今日はどうしたの?」
「どうもしてない……どうもしてないけど、綱吉、お願い。キスして」

屈む綱吉の首に両腕を回して、少し強引に引き寄せる。はいはい、と子どもをあやすように綱吉は少し苦笑を浮かべてから唇を重ねた。数秒そうして、ゆっくりと離れる。隣に腰掛けた綱吉に、私は猫みたいに擦り寄った。

「あのね……もっと触って、欲しい」
「――しょうがないな」

綱吉は私の下心なんてお見通しだ。もう一度唇を重ねるその感触に、私はそっと瞳を閉じた。

101028