03 ときめきに策略



どうもに避けられている気がする。というか確実に避けられている。
忙しくても朝晩は顔を合わせていたし、オレが仕事から帰ってくるときははなるべく都合をつけて待っていてくれたはずだった。それなのに今回出張から戻ってきたときはいなかった。彼女は今休暇をとっているがどこかへ旅行に行くとは言っていなかったし、獄寺くんに訊いたらさっきまでここにいたらしい。
「もうすぐ10代目が戻るって言ったら、あいつ嬉しそうにしてましたけどね。てっきり10代目を出迎えに行ったのかと思ってたんですが……」
どこかに買い物に出かけたのかもしれないし、何か急用ができたのかもしれない。そう思って夕食までは過ごした。しかし夕食が済んでそろそろ寝ようかというころになってもは姿を現さなかった。
おかしい。いつものならメモを残しておくとか、電話してくるとかがあるはずなのに。
疲れてはいたけれど、それどころじゃない。オレはを探すことにしてあちこちを回った。
本部周辺を護衛している者に訊いてもは見ていないというから、多分本部の中にいるのだろう。彼女のいそうなところを探す。訓練所、執務室、食堂、図書館。どこにもはいなかったが、彼女を見たという人はいた。やっぱり中にいるにはいるみたいだった。どうやらは本気で隠れるつもりはないらしく、何人かを見たと教えてくれた。
は何がしたいんだろう?
「さっき中庭に行くのを見ましたよ」
「ありがとう。行ってみるよ」
廊下ですれ違いざまに教えてもらった。中庭か。もう夜はかなり寒いけど今日は満月が綺麗だから、それを見に行ったんだろうか。




中庭に続く廊下を、オレは早足で歩いた。
早くに会いたい。会って抱きしめたかった。
中庭の扉を開けると、冷たい風が吹いてきた。頭の上では満月が輝いている。
辺りを見回わしての姿を探すと隅の方のベンチに座っている人影が目に入った。だ。彼女は空を見上げて月を見つめている。やっとを見つけられてオレはほっとした。彼女のいるベンチの方へ、枯葉を踏みしめて近づいた。
、こんなところで何してるんだよ」
「あ、おかえりなさい綱吉……隠れたりしてごめんね」
少し申し訳なさそうにしては笑った。やっぱりはオレに彼女を探させようとしてたらしい。
「なんで隠れたりしたんだよ、心配するじゃないか」
「ごめんね、ちょっと焦らしてみたかっただけなの。いつも私ばっかり焦らされたり、どきどきさせられたりするから、たまには逆がやってみたかったんだけど……」
は悪戯したことを後悔する子どもみたいだった。オレを焦らそうとしてちょっとした策を立て実行するまではよかったけれど、ここまで来る間に彼女の方が参ってしまっていたようだ。
「はぁ、とにかく何でもなくて良かったよ。もういいだろ?」
の手を引いて立ち上がらせたところをぎゅっと抱きしめる。の身体はすっかり冷え切っていた。
「うん…もうこんなことしないよ。綱吉疲れてるのに、余計な心配と手間を掛けさせて…ごめんなさい」
背中に回されたの腕に力がこもる。オレはしゅんとしているの頭を撫でた。
「いいって。もう部屋に戻るよ」
「うん」
の腕が解かれる。その手を掴んでオレは自分の部屋へと戻ることにした。
――焦らされた分は、きっちりに責任を取ってもらおう。
オレがそんなことを考えているのにが気が付くのは、もう数分後のことだった。

081216