01 恋に闇夜 月のない夜を二人で歩く。 綱吉と出かけるなんて久しぶりで、浮き立った気持ちで砂を踏みしめる。夜の海には人の影はなく、静かな波の音がするだけだ。 ――今夜、ちょっと出かけよう? いつものように獄寺や山本たちと揃って夕食を取った後、自室へ戻ろうとしたところを綱吉に引き止められた。久しぶりの綱吉からの誘いに顔を上げると、私が返事をするよりも早く綱吉は0時に迎えに行くからと微笑んだ。それは私に有無を言わせない、綱吉の特権のようなものだ。もっとも、断るつもりもないのだけれど。 そんなわけで、0時丁度に迎えに来た綱吉と真夜中のデートに繰り出した。ボンゴレ所有のプライベートビーチは、当然ながら人気がない。昼の明るい太陽の下で綺麗な街を歩くのもいいけれど、今は真夜中の海の方がずっといいと思える。 横に並んだ綱吉は、この十年で随分変わったような気がする。真っ暗な砂浜を黙って歩いていて、ふいにそんなことを思った。 初めて会ったのは中学生のときで、その頃の綱吉はまだちょっと頼りなかったのに、今ではすっかりマフィアのボスが板についている。頼れるボスという感じだ。顔つきだって、可愛い印象だったあの頃とは違って、すっかり落ち着いた大人の雰囲気になった。 「なに、」 「え?」 「ずっと俺の顔見てるからさ。どうかしたのかと思って」 指摘されるまで自覚がなかった。そんなに見てた?昔のことを思い出していたとは何となく言いにくかった。ましてや見とれてましたなんて言えるわけもなくて、言葉を濁す。 「なんでもない」 「ホントに?」 くすりと笑う綱吉に、私はそっぽを向く。こういう風に笑うのは、本当は私が何を考えてたのか予想がついていて、それに自信があるからだ。 「は誤魔化すのが下手だ」 「気がつかないフリしてくれればいいのに」 「が照れるのが可愛いくて、我慢なんてできないよ」 こういう、普通は照れたりしながら言うようなことを綱吉はさらりと言ってのける。 「……なんだか、綱吉イジワルになったよね」 付き合いが長いからなのか、大人になったからなのか。どちらかは分からないけれど、それは綱吉には余裕があるってことだ。 「そんなことないよ。こんなの、にだけだし」 「…………」 もう、綱吉には敵わない。頬が熱くなるのが自分でもわかって、私の余裕は減っていく。私は誤魔化すように綱吉の手を取って、身体を寄せた。繋いだ手を握り返してくれる力が心地良い。 「綱吉」 足を動かす度に絡んでくる砂を気にする振りをして、俯いたまま名前を呼んだ。こういうのって、言いたくなったときに言うのが大切だって思ってるけど、正面向いて言うのは未だに照れてしまう。だから、俯いたまま。 「綱吉、大好き」 真夜中でよかった。私の頬が赤くても、綱吉からはきっと見えない。 夜が、隠してくれるから。 |